騙す

「張飛殿」


呼び声に怪訝な表情で振り返った張飛殿であったが、私の手元で輝く酒を目にすると、途端に破顔する。

その度に私は思うのだ。骨を折ってでも手に入れて良かった、と。


「なんだよ、いい酒があんなら言ってくれりゃよかったじゃねえか!美味い肴でも調達してきたってのに」
「それに関してはご安心を。調理場には顔を出して来ましたので」
「お、気が利くななまえ。今日はいい月も出て一段と酒が旨いだろうし、うってつけだぜ」
「張飛殿は嵐だろうと酒を楽しむでしょうに」
「あ?いやまあ、そりゃそうなんだがな。やっぱ気候がいいに越したことはないだろ?」
「……ええ、確かにまあ」
「うしっ!とにもかくにも酒だ酒!」


張飛殿に手渡す瞬間、本当に微かに、擦れる程度に手が触れた。そのまま掴んでしまおうかとも思ったけれど、そんな行動に出ては言い訳がなくなってしまう。

あくまで私はいい酒が手に入ったから張飛殿を訪ねたのであり、酒を飲む相手ならば誰でもいいのだ。

一人よりは二人。だからたまたまそこにいた、同じく酒好きの張飛殿を誘っただけ。そう思わせなくては。


「酒は、味のわかる人間と飲まなければつまらないですからね。張飛殿がいてくれてよかった」
「なまえ、兄者達には秘密にしてくれよ。控えるように言われてんだ」
「もし見つかったら、真面目な話をしていると言っておきましょう」
「おうよ――…って、そりゃ俺が最初になまえを誘ったときの言い訳じゃねえか?」
「ふふっ、真似事ですよ」


あの時まんまと騙された私のように、張飛殿も騙されてくれないと。

絶対に私は、真意を告げたりはしないけど。

20131129

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -