甘える

「疲れてない?」


はて、その言葉は何に対してだろうか。
卓に顎を乗せた状態で上目遣いに張苞を見るなまえに対して抱いたのは、そんな疑問である。

この状態では、なまえこそ疲れているに相応しく思えるが。


「…………特には」
「そ」
「なんだよ急に」
「何ってこともないけど」
「じゃあ、なんだよ」
「何が」
「ないって言うくせに、顔は一つも納得してないだろ」


張苞が告げると、なまえは眉間に皺を寄せて思案した。何も張苞を嫌悪しているわけではないと理解していても、姿勢を正し渋面のまま視線を向けられるのは気分がいいとは言えない。

好ましく感じている相手ならば尚のこと、なまえも張苞が同じような表情を浮かべた際には「何?」と答えが得られるまで食い下がって来たのだ。

流石にそこまではしないが、気持ちはわからないでもない。


「ただほら、張苞は疲れてないかな、と思っただけ」
「俺が疲れてないって言ってるんだ、そう気にするなって。それよりなまえは」
「それっ!それがさあ……まあ、張苞なんだけど…………駄目」
「……どれだよ」
「それよりなまえはーってやつ」
「……おかしいか?」
「ん」


私はね。
勢いよく吐き出したはずが、すぐに唇を固く結んで黙り込む。女性と言うよりは妹をあやすような気持ちで頭を撫でると、伝わってしまったのか嫌悪丸出の視線を寄越されてしまった。

零れる苦笑、なまえは浅く、息を吐く。


「星彩じゃないんだけど」
「知ってる」
「張苞に、こういうことしたいの」
「俺に?」
「関興とか星彩とか、面倒見てばっかでしょ?――…だから」
「……ありがとな」


照れ臭くて、むず痒くて、嬉しくて。
緩む頬を繕うこともせず告げると、なまえももごもごと口を動かす。なんだか空気が、落ち着かない。


「私も面倒見てもらってる、感じだし。少しくらい、出来たらなって。母親じゃなくて……さ」
「正直、俺もよくわかんねえんだ。なまえに、どんな風にしたらいい?」
「……じゃあまず、……頭、撫でていい?」
「聞くのかよ」
「だって――…あと、くっつくとか。膝なり肩なり、張苞自身がしてほしいことを言ってくれたら、いい、かな、と」
「俺自身か……」


なまえはどうされたら嬉しいのだろう。
ああいや、そうではない。張苞が嬉しいかどうかだ。素直に自分を優先して、しかし一体、何を。


「そう……だな」
「………」
「――…考えるから、待ってくれるか?」
「……なるべく早くね。緊張しすぎて、苦しい」


鬼のような形相のなまえを思うのならば迅速に。

だがこれは、想像以上に難題だ。

20130921

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