狙う

立ち塞がるというのが正しい。目の前の法正殿は何時ものように心がざわつく笑みを浮かべて、私が足を踏み出した方へと体を動かす。

これでは前に進めない、諸葛亮殿へのお届けものが、出来ず仕舞いだ。


「どうも、なまえ殿」
「はい、どうも」
「お仕事で?」
「法正殿、こちらは諸葛亮殿にお届けする竹簡です」
「……成る程」
「ですので、大丈夫。私一人で問題ありません」


恩も怨みも倍にして。
それを信条とする法正殿が度々私とこんなやり取りをするようになったきっかけは、実に単純だ。

体調が思わしくないという法正殿の看病、それだけ。私には医学の知識がないため言われるがまま物を運び彼の様子を伝えていただけなのだが、法正殿はそれを恩として受け止めたらしい。

故に法正殿が済んだと認めるまでは、私に何かと贈り物や世話を焼くのだと。

そう告げられてから日は何十と昇っては沈んだ。最初こそありがたく受けていたのだが、終わりの見えない恩返しに徐々に恐怖が生まれている。だから距離を取ろうとしている、のだが。


「残念ですが、諸葛亮殿と聞いては気乗りしない」
「……法正殿には、日頃お世話になっていますので」
「こちらも、なまえ殿には会うたび色んなものをいただいているのでね。重なるばかりで、少しも返しきれませんよ」
「妥協するとか」
「それは意思に反する」
「……はあ」


法正殿は構わず詰める、思わず逃げだしたくなってしまう笑みを湛えながら。
だからだろうか。恩返しと言いながら、退路を断っているように見えるのは。


「まあ、それなら日を改めましょう」
「……左様で」
「知ってます?なまえ殿」
「何を?」
「恩を返すとね、そのうち自分自身に返ってくるんですよ。より大きな福が」


にたり、そう表現するのがよさそうな笑み。

あれ。行き過ぎた善意とばかり思っていた行為は、やはり恐怖が正しいのだろうか。


「……報復も、より大きな負となるんでしょうか?」
「おや――…まあ、それも嫌いではありませんが」


逃げましたね。
肩を竦めながら吐き出された言葉は、変わらず気怠げだ。

咎められこそしなかったけれど、観察するような視線も声も。
徐々に心を蝕んでいく、気がする。

20140504

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テーマ「人外ファンタジー」
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