黙ったままでいるホウ統をちらりとだけ見、それから視線を戻す。
眠っているのかと疑いたくなるくらいだ。それなら、と体の力を抜いて凭れ掛かれば、ホウ統が反応したとわかる。
起きてはいた、いや、そうと知ってはいたけれど。
「なんだい。甘えただねえ、なまえ」
「でも、気づかれてしまったので終わりです」
「おや、終わりかい」
「はい、終わりです」
残念だねえ。
呟くホウ統の声色から寂しさを感じないのは、なまえが凭れたままでいるからだろう。「なまえがいるだけでいいんだよ」という言葉は今でも胸に刻まれている。
何度も何度も繰り返しては頬がゆるみ、その度にホウ統に怪訝な表情を向けられるのだ。それがまた何故だか嬉しくて、一層頬はゆるんでしまう。
「肩の辺りがあったかいねえ」
「重たくは?」
「ないよ。丁度いい重ささ」
「なら、いいです」
「そうだよ、気にしなさんな」
それ以上何をするでもないが、こうして誰よりも近い場所にいられるだけでいいのだ。
のらりくらりと躱していたホウ統が自分を見て、選んでくれた。それがどれ程幸せなことか。
「…………ま、重たかったとしても勿体なくて言えないよ。あっしだって、なまえとこんな風に過ごすのが好きだからねえ」
「ホウ統様――…」
「いやあ、恥ずかしいもんだ。あんまり見ないでおくれよ、なまえ」
そう吐き出して帽子を深くかぶり直す。
そうされるとますます見たくなるのだが、隙間から覗こうとしたところあっさりと逸らされてしまった。
駄目だよと、咎めるというにはあまりに小さな声が届く。
「……ホウ統様は以前」
「ん?」
「一緒にいてくれてありがとう、とおっしゃいましたが。私だって、同じなんですよ」
「おや、そうなのかい?」
「一緒にいさせてくれて、ありがとうございます」
「……どういたしまして、なまえ」
幸せが似合わないだなんて、そんなはずはないのだから。
20131206