「なんだってんだ!まったくよ!」
「なんだ!?それはこっちの台詞です!なんなんですか!本当に!!」
一段と大きくなった声には、怒りではなく疑問が滲んでいる。孟獲殿は深く考えるのは得意ではないのかもしれないが、どうにもならない馬鹿ではないのだ。馬鹿さでいえば、私の方が上回るだろう。
だから、こうして腹の中を掻き回す苛立ちを処理出来ずにいるのだし。
「褒めたんだろうが!だってのに、人のこと殴りやがって、」
「私が負傷しましたけどね!」
「腹殴っといてそれか!ま、その程度の力、なんてことねえのは事実だけどよ」
「だったら、孟獲殿曰くの褒め言葉は当て嵌まりませんね!」
「それはそれだ。敵を簡単に蹴散らしちまう、まさに虎――…いや、やっぱ象だな!すげえ奴だぜ!」
「………!!」
ずんずんと進めていた足を止め、振り返る。
確かに今の私は虎のような表情をしているかもしれない、力の入った一歩一歩は象と例えたくなるかもしれない。
だとしてもだ。こうして乱世に身を投じ、周囲にどんな顔をされても突き進んで来たとしても、だ。
「それっ!!虎!?象!?どういうつもりなんですかねっ!」
「なまえの強さを讃えてんだ。あの激しさは虎か象にしか例えられねえ、最高の褒め言葉じゃねえか」
知ったことか。
じゃあ孟獲殿は慕情を抱いた相手に「君は象みたいで素敵だよ」と言えるのか。
この、他とは異なる地域では象も虎も立派な家族。彼らの頼もしさは私だって十二分に理解しているし、しているけれども。
それに、言われたら喜ぶ人を好いているのかもしれないし、私も見た目だけ取り上げているのかもしれないけれど。
身勝手だけど、私の心も汲んでほしい、と言いますか。
「それなら鬼神でお願いしたいです!!」
「何が違うんだよ!」
腹に入れた拳が痛まなければ象でも仕方が、とは、思いたくない、です。
20131221