※近づく

※現代/擦れ違う続編

「その本、どうでした?」


何時もと変わらない場所に座って外を眺めている彼に声をかけると、返ってきたのは言葉ではなく意表を突かれた、と言いたげな表情だった。

まあ、私の指定席のようになっているのは徐元直さんから離れた場所だし、見事友達と講義が被らなかったため普段はプリントを眺めているか音楽を聴いているし。

まるで接点のない相手が話しかけてきたら、驚くのも無理はない。


「えっと――…レポート、別の本を参考にしようと思ったんですけど。どうもなんか、書きたいと思った部分ではなくて」
「そうだったんですか。――…読んでみます?」
「あ、ありがとうございます。……図書館、いましたよね?前」
「ええと……ぶつかりそうになった人で、間違いないですか?」
「はい」


答えると、やっぱり苦笑。あれはお互い様であって、元直さんだけが気にすることでもないんだけどな。

でも私は普段の元直さんを知らないから、苦笑はただの癖、の可能性もあるわけだ。図書館で会った元直さんも、こんな感じだったわけだし。


「見覚えがあるなと思って、確かどれか、授業が一緒だったかなと考えていたんだけど。同じような本を探していたなら司馬徽先生かもしれないって、ああ、この話はいいか。ええとそれで、本」


一気に吐き出した内容は上手くまとまっていなくて、元直さんは異性が苦手なんだろうかと思う。いや、私だって得意ではないんだけど。

そういえば、違う学部に女子人気の高い、しかも彼女を取っ替え引っ替えというわけでもないらしい男がいると聞いたことがある。まあそれは、元直さんとなんの関係もないな。


「俺はレポートも片付いたし、今日返そうかと思っていたんだけど。目を通して君に役立ちそうなら、返したついでに借りたらどうかな、と。あ、次は授業、大丈夫ですか?」
「次、はちょっと。その次なら、平気なんですけど」
「俺は二コマ空きだから、それでも平気ですよ」
「あ、そうですか?なら、お願いしても?」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます。図書館の前で待ち合わせ、でいいですか?」
「はい、それで」


ありがとうございます。
もう一度口にすると、元直さんは苦笑とは異なる笑みを浮かべた。嬉しそうとは言いきれないけど、嫌な感じではない。はにかむ、だろうか。


「助かります」
「いやあ……お役に立てるなら、光栄です」
「……」
「……授業、そろそろですね。……準備した方が」
「――…隣、いいですか?」
「えっ?」


その困った顔、答えはどっちなんだろう。

20141211

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