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「それではいかんだろう」


告げる馬超の表情は真剣だ。しかし、馬超自身も私と変わらないかそれよりも薄着ではないか、と思う。

殿が全土を統一なされて幾月か。
直後こそ慌ただしかったものの、今はすっかり慣れた調子で生活が出来ている。そんな折りだったのだ、殿から一つの提案が与えられたのは。


「でも、そんなに服持ってないし」
「体を悪くするぞ。お前が涼州へと足を運んだのは、戦の一度きりだろう」
「うん」
「あの時期は寒さも厳しくはなかったが、腰を据えるとなれば話は別だ。秋も深まれば身を裂かれる思いかもしれん」
「そういう馬超は?」
「出る際にはもう一枚羽織るさ。何より、俺は土地に慣れている。故郷だからな」


故郷と口にした馬超の顔が綻ぶ。声色も愛しいものを紡ぐそれだ。

あれは確か、労いにと設けられた宴席で。
親しいと称するにはまだ一歩踏み込めていないあの時、軍に入る前は何をしていたのかという話になったのだ。

その中で知ったのが、馬超が涼州の西部の生まれであること。そして故郷について語る馬超はとても幸せそうであること、だった。


「一枚じゃそう変わらないと思うけど……」
「俺は平気だ。第一、お前が体を冷やして体調を崩しでもしたら事だろう。心配だし、到着も遅れる」
「……まあ、殿が気遣ってくださったとはいえ任地だしね。まだ積んではないはずだからどこかに――…あ」
「どうした」
「……」
「なまえ?」
「出るときに数枚は羽織るから、ね?」
「ね?」


首を傾げる馬超は、確かにそうだから馬超なんだけど。

もしかして、くらい思ってくれないかなあ。こうやって両手も広げているんだし。


「あっためてもらえたら嬉しいなーと」
「…………何を言うんだ、お前は」
「駄目?」
「…………駄目では、ない」
「じゃあ、お願いしまーす」



言葉はいつでも真っ直ぐなのに。
そんなところも含めて、大好きなんだけど。

20141213

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