握りしめる

泣く続編

鬼の目にも涙。
そんな風に思ったのは、何時だったか若が「鬼神の如き姿だな」なんて感心したように呟いたからに違いない。

なんとなく残っていたそれが形を取り戻して、ぽんと浮かび上がってしまった。それだけであって、俺がなまえ殿を鬼だと思ってるわけじゃない。

確かになまえ殿は男らしいけど、男ではないからさ。


「…………」
「――…馬岱殿」
「えっと、うん。馬岱殿」
「あっ、ああ、申し訳ない!傷も完全には癒えていないというのに!」
「いや、気にしなくても大丈夫……」


よくわからない荒地をひらすらに歩いていて、喉が渇いたな、苦しいなと思っていたら細い川があった。

川と呼んでいいのかもわからない細い細い、砂地にしては綺麗な水。飲みたくて伸ばした腕は飛び出してきた掌に掴まれて。恐ろしいはずの出来事なのに、俺は恐怖と喜びを感じたんだ。

そして夢から覚めたら、現実もちょっと怖いというか、驚いた。


「――…薬士は」
「他の者の手当に。馬岱殿が急変したら呼びに来いと言われ、気が気でなく……。馬岱殿が顔を顰めた時には危篤かと焦ったのだが、杞憂で」
「そっか。俺が見たのは、なまえ殿の手」
「見た?」
「引きずり込まれるかもって焦ったんだけどさ、うん。ありがとね、なまえ殿」
「…………強く、握りすぎただろうか」
「んー、ちょっと?」
「そっ、そうか……」


弱くはなってるけど、まだ握られた手。
目を真っ赤にしてるなまえ殿は鬼じゃなくて将で、それから女の子、でもあるんだよね。

俺を心配して泣いていた、それで加減なんかすっかり忘れて手を握って祈っていた、女の子。

20131014

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -