※男主/惚れる続編
「是非、お話していただきたく」
真剣であればあるほど困るのだが。
そう口に出来たら、どれだけ楽になるだろう。実際は心で思うばかりで、何を言うこともない。いや、問題ないを繰り返すだけである。
真っ直ぐな性根の男に「惚れた」と思いを伝えられた一件然り、眼前の姿然り。原因は文次騫という存在に他ならず、だからこそ何も言えない。
気を遣えないわけではないこの男は、元来備わった性格故に真っ直ぐに、真面目に問う。躊躇いも、ないかもしれない。彼からすれば、憧れの対象となっているなまえを案じているだけなのだから。
再三になるが、文鴦の感情はなまえにとって有り難いものである。しかしだ、これも再三になるのだが、対処に困るのだ。誰に尋ねようと答えは得られず、新たな言葉を得たわけでもない。
となれば、文鴦に対する困惑が解消されるはずもないではないか。
「なまえ殿がそうしてお一人で解決してしまわれることは、重々承知しております。私の力が及ばぬことも、単に私自身の我が儘に過ぎぬということも。それでもやはり、」
「いや、決して文鴦殿を軽んじているわけではないのだ。そうして細やかに周囲を見る目、素晴らしく思う。――…ただ本当に、特に、問題がないだけで」
「…………」
「……信じてくれ」
悲しそうな顔をしないでくれ、頼むから。
確かにまあ、手伝いたいという意見も取り合わず、何か悩んでいるらしいのに口を開いてもくれない。例えばなまえも、想いを抱き続けている存在に否定をされたら苦しくて堪らない。今の文鴦はそんな状態なのだろう。
しかしなまえには、少しは落ち着けと言ってやれるような器量がない。言葉にするのは容易いが、冗談めかして口にすることが出来ないのである。
なまえはそんな調子であるし、文鴦に冗談が通じるのかも定かでない。これは文鴦というよりも、なまえの性分が原因と言えようが。
「――確かに私は若輩者。ですが、柔ではないつもりです。お気遣いならば無用」
「気遣い、というわけでも…」
「お話を聞かせていただくことも不可能ですか」
「…………」
悩みというのは、だからだ。
期待に満ちた眼差しの文次騫その人、なのだが。
「………….大丈夫。私は、平気だ」
そんなこと、言えるわけがないだろう。
20141217