「っ、」
「痛みますか?」
「まあ、少し」
言えば文鴦は納得いかぬという風に眉を寄せた。少しではないだろうと、そう声を上げたいに違いない。
何せなまえの肌は見事に変色し、通常よりも青やらくすんだ赤になっているのだから。
全力でかかってこいと言ったのはなまえで、応じたのは文鴦。彼よりも長く戦場に立っているという理由から先行したがるのもなまえの性だ。文鴦にしてみれば一人でも片を付けられ、全力を出せば骨を折ることも容易い女に大きな顔をされるのは、さぞ気分が悪かろう。
彼の性格から、露骨に全身で表現してみせる鍾会ほどではなくとも、だ。
「なまえ殿は、私の前では無理をなさいますね」
「無理?……これはただの打ち身だし。色を見ると重傷に思えるけど、そう痛くはないから」
「――…私は、弱さを見せることも強さの内であると思います」
「変なこと言うね、文鴦」
そう言いはするが、肌の変色に加え、目に見えて腕が震えている。打たれた拍子に得物を取り落とした挙げ句、未だに痙攣が止まらないのだ。
それを目の当たりにして言葉のままを信用しろだなんて、無理な話だろう。
「それは当然、なまえ殿の背を見て歩んできた部分はあります」
「うん」
「だからこそ、というわけではありませんが。こうして成長した今、なまえ殿を守りたいと思うのです」
「……」
「共に背を預けられるような、どちらが優位にではなく、対等な存在になりたいと」
痺れの残る手を労るように、文鴦の掌が重ねられる。なまえは思わず目を見張り、勢いに任せて乗せられた手を払ってしまった。
しかし、何よりも驚いたのは文鴦だろう。行動は拒絶に違いないのに、表情は拒んでいるとは言い難いのだから。
「――…ちょっと、文鴦」
「もう手を引かれずとも並ぶことが出来ます。私を信じ、背を見せるのではなく預けてください、なまえ殿」
文鴦の瞳に迷いや躊躇いはない。ああどうやら、手を払ったのはなまえだけではなかったらしい。
20150214