※女×女っぽい
つつ、と唇に感じた違和に身体を強張らせると、よくよく整った顔が一層綻ぶ。それに瞳は童のように輝いて、私に興味があるのだと如実に表している。
沸き上がる感覚、これは、非常に恐怖に近い。
「思った通り、よく似合うわ」
無邪気な声に私は何と答えたらいいのかわからず、微笑みの形をとるので手一杯だ。
満足そうな彼女の声色からするに、仕上がりはおかしくはないのだろう。
しかし彼女は私には見せてくれないので妙な緊張は拭えない。いやまあ、この緊張は、それだけではないのだけれど。
「何て可愛い……そう、あなたのために礼服も用意したのよ。勿論、着てくれるわよね?」
「れ、礼服?はっ、はい、謹んで、お受けいたします……」
「そんなに畏まらないで。でもね、あなたならそう言ってくれると思っていたわ」
どうしたことか、本日の張春華様は心から楽しそうだ。
先程から気になっていた上等な箱をご自身の手元まで持ってくると、一瞬私を見て悪戯っ子のような笑声を上げる。流れからも予想は出来たが、私は思わず目眩を覚えた。
姿を現したのは婚礼衣装だ。
とても私が身に纏いそうにない、何時かやってくるその日にも指定はしないだろう繊細で華やかな、もう誰が見たって上等だとわかってしまう生地。「あなたの為に作らせたのだから、貰ってくれるわよね」、張春華様の言葉が身体に伸し掛かる。
「…………こんな絢爛なもの恐縮、ですが。……あの」
「あら、そのまま持って帰る気なの?そうしたら、私が見られないじゃない」
「え、ここで着るのですか!?」
「当然。なまえ殿がどんなに可愛らしくなるか想像しながら選んだのだもの。今すぐ着てもらわなくては、困るわ」
「…………いや」
「着たからといって子元や子上の妻に、だなんて言わないから、安心して?」
「そのような心配は、」
しなやかな指が輪郭をなぞったことで私の身体は再び強張る。この手つきは一体、誘うような捕らえるような、これまでに一度も体験したことのない、震えだ。
「だってあなたは私の一番のお気に入り、可愛い可愛いお人形だもの。愛しい息子にあげるだなんて、勿体ない」
指が離れていく。張春華様の瞳が、喜色だけでは表現しきれない色を宿す。
私は食べられるのでは、ないだろうか。
20130830