照れる

女の顔が真っ赤に染まる。
元々内気なのか非常に変化のわかりやすい子であったが、ここまで大袈裟にされると、鍾会とて反応せずにはいられない。

そもそも鍾会とは、他者に言わせれば自尊心が人間となって歩いているような男である。
拒絶と断定するのは些か早計であれ、飛び跳ねるように距離をとられては不信感、いや、不快感を抱いて当然なのだ。


「なんだ、その反応は」
「いっ、いいえっ、私はその、ただあのっ、驚いて……鍾会様の妨げになってしまったのかと思い……あの」
「別に、背後に何かあるわけでもないだろう。頭に埃がついていたから取ってやったまでだ。ありがたく思うんだな」
「はい、大変ありがたく、恐悦至極に存じます、鍾会様」
「…………」


ちらりと鍾会を窺う瞳。
司馬昭はその小動物のような様を「可愛い」と言っていた気がする。
そうやって、何かと自分が手を貸してやらなくてはならないような子もいいもんだと主張されたのは、果たして何時だったか。


「……何時まで縮こまっている気だ」
「あっ、これは大変失礼を、申し訳ございません……あの、鍾会様を恐れているわけではなく――…言い訳がましいかもしれませぬが、その、私は昔から父母にもすぐに顔を赤くすると言われつづけておりまして、癖と言いますか、決して、決して!鍾会様に触れられたことが嫌だというのではなく、ですね」
「…………要点を纏めてから話したらどうだ?」
「そっ!……そう、ですね。鍾会様のおっしゃる通り、です。本当に。…………そうなりますと、あの」


これは周囲に大柄な人間ばかりが集まる弊害だと鍾会は思っているが、なまえは鍾会よりも小柄である。諸葛誕よりも小柄だ。女はまあ元来男よりも小柄なのだが、その小柄ななまえがますます小さくなっている。

守ってやらねば、などと、鍾会は思いはしないが。


「……こんなことを女が、私のような立場の人間が口にしてはならぬとは思うのですが。…………恥ずかしいのです。埃を付けた姿を鍾会様に見られたことも、鍾会様が、……私の髪に、触れてくださったことも」
「――、」


視線は交わらない。それどころか表情だって明確には見ることが出来ない。それはなまえも、まったく同じなのだが。

だが、まあ。


「――…間抜けにも程がある」


耳どころか首あたりまで真っ赤になった姿を見られずにすむのは、好都合だ。

20131130

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