叶える

今思えば、いや、頼まれたあの瞬間に感じていたことではあったが、間違いなく押し付けられたのだろう。

しかしそれが事実としても、任務である。
司馬昭が自分を訪ね、頷いたところでそう決まったのだ。


「桃が食べたい」
「……桃?」
「食べたいの」
「お言葉ですが、なまえ殿。今この部屋には」
「もらってきて」
「……はあ」


短く用件だけを告げ、つんと逸らされる顔。
言い返すのは得策ではない、調理場に行って尋ねるとして、ないようなら街に出るか。

押し付けた手前、司馬昭は強くは言わないだろう。「煩いからしてやってくれ」と、そんな言葉が聞こえそうだ。


「あと、賈充に頼んでいたものがあるからそれも受け取ってきてね」
「……畏まりました」
「出来うる限り最速で。いいこと?」
「……。では、行ってまいります」
「行ってらっしゃい」


賈充はなまえを面倒がっているから、自ら足を向けることはまずない。なまえもまた、「まったく言うことを聞かないから」という理由で嫌っているようだし。
まあ、賈充の気持ちもわからなくはない。トウ艾もトウ艾で会えばあれやこれやと注文を受けるのだ。次々と、まるで途絶える気配がないのはある意味感動を覚えるが。

賈充は部屋か。ああ、言うことを聞かないといえば、それで鍾会とも相性が悪いという話だ。二人が関わると何かしらの被害が出るため、可能ならば顔を合わせずいてほしいところである。


「失礼いたします、賈充殿。なまえ殿が……」
「これだ、持っていけ」
「……」
「なまえ殿はお召し物がほしいんだそうだ。後で散々文句を言いたいがために俺に任せる――…面倒な」
「お届けしておきます」


退出の間際に届いた溜息。まったく自由な人である、なまえは。


「――遅い」
「なまえ殿」
「賈充にはもらってきた?ああ、この箱ね」
「お部屋では……」
「待ちくたびれたのよ。喉は渇くしお腹が減ったわ。トウ艾、食事に行くからさっさとその箱を置いてきて。ついて来なさい」
「……では、少々お待ちください」
「………」
「……なまえ殿?」
「やっぱり、まずは食事。それを持ってついて来て」
「畏まりました」
「…………」


顔が歪む。
トウ艾のではなく、なまえの。トウ艾にしてみればなまえの最善に従うことが任務であるため、気持ちは理解出来ても賈充や鍾会のようになる気はない。

私情と職務は切り離すものだ。彼等とて、それくらい承知であろうが。


「……なまえ殿、何か?」
「言うことはないの?」
「言うこと、ですか」
「文句とか嫌味とか」
「なまえ殿の望みを叶え、従うことが自分の任務。全うする必要はあれ、愚見の必要は……」
「――っ!詰まらない男ね、お前は!」
「それは申し訳、」
「荷物を置いてきなさい!そんなものを持っていたら邪魔で仕方がないでしょう?迅速に!」
「畏まりました、尽力いたします」
「私は空腹なんだから!」


あれをしろこれをしろ。叶えろと言うのはなまえだろうに。

それが望みでないのなら、さて何がなまえを心から喜ばせるのだろうか。

20140220

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