慕う

「あんたは恋でもしてんのかい」


賈クは吐き捨てるように言い、酷く不愉快そうに顔を歪めている。
私はその言葉に思い当たる節などまるでなく、言葉を投げられた時のままの姿勢でいると、彼はわざとらしい溜め息を吐いてみせた。なんだと言うのか、一体。


「曹操殿。そりゃ付き従ってる以上、好意というか敬意?崇拝するような感情は持ってるだろうが。なまえのはあれだ」
「あれ?」
「…………あれだよ」
「私は賈クのように頭が良くないから、わかりやすく言ってほしいかな」
「…………」
「……嫌味では」
「わかってるよ」


そこまで苦い顔をしなくても。

私の想いは、賈クの言うように好意であり敬意だ。この荒廃した世を治めることが出来るのは曹操様を措いて存在するはずがない。
曹操様のお声こそが我々や民を導き、曹操様の指こそが泰平を示す。これの何が妙なのか、これの何が恋であるのか。賈クは本当に、おかしなことを言う。


「境目、あんたが持ってる想いは際にあるもんだと思ってたいたんだが。まあ実際、何時どこに転がっても不思議はなかったんだ。それが、悪い方に転がったってだけでね」
「曹操様への忠義を否定されるのは気分が良くない。だってそれなら、郭嘉は?張遼や楽進はどうなの」
「あんたは一度でも、顔を見たことがあるか?」
「だから。そういうまどろっこしい言い方じゃなく――…曹操様」
「よい、そのままでいよなまえ。夏侯惇を知らぬか?奴め、負けを恐れて逃げよった」
「いいえ。私は賈クと言葉を交わしておりました故……夏侯惇殿には覚えが御座いませぬ」
「そうか。……見掛けたら言っておけ、夏侯元譲ともあろう者が碁に怯えるなど情けない、とな」
「承知いたしました」


するりとそのまま、曹操様は姿を消す。
漸く面を上げた賈クはやはり私を不愉快そうに眺めるばかり。また同じことを口にしそうになり、今度ばかりは飲み込んだ。


「あんたの目が恋をしてるんじゃないなら、女官の郭嘉殿を見る目も恋じゃなくなるわけだ」
「あれは好いている目だ。随分と可愛くて、私だって羨ましくなる」
「随分と可愛くて、俺だって羨ましくなる」
「……何、賈ク」
「なまえは女の子だ」


香を焚きしめていらしたのか、息を吸い込むとまだ曹操様のお姿があるような感覚に襲われる。

ああ。胸が、身体が、擽ったい。

20131103

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -