振り返る

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普段よりも大股で歩くなまえは、わかりやすく気を損ねている。

少しでも私を遠ざけようという抵抗なのだろうけど、そんな幼子のような行為が通用するはずもない。私はいつもなまえに合わせて歩いているのだから、多少強引にしてみたところで苦でもないよ。

それでも背中を見ているのは、ささやかな抵抗をし自身の愚行にも気づかないなまえが可愛らしいから、かな。


「気に入らない?」
「何が?」
「先程から私を見てくれないから」
「いつも見てないけど」
「やきもち?」
「違う」


なまえは酒や男女の情を嫌っているわけではない。私だって自ら是非にと放浪軍に誘った身だ、全てをなまえに任せて遊び呆けているわけではない。

遊興に耽って金をばら蒔いているわけでもないけれど、享楽を好まないなまえのこと。抱く想いが恋慕でなくとも臍を曲げて当然、というわけだ。


「――…へえ?けれどあなたの機嫌が悪くなったのは、今朝に私が戻ってからだ」
「私の朝の様子なんて知らないでしょ」
「知っているさ、もう随分と一緒にいるんだから。……それに」


まあ言わせてもらうなら、ただ美しい女性を眺めるばかりが酒宴ではないということか。

私にしてみれば戦も享楽の一部だから、周辺の情勢を知るのも同じくなのだけど。ああ、この考え方もお気に召さないのかな。つくづく不思議なものだ、人の縁とは。


「あなたは私が大好きだからね」


突然勢いを殺したものだから、なまえはつんのめるように停止した。そんなに急いでいたのか、無駄な努力だというのにね。


「別に好きじゃないっ!」
「おや、やっと私を見てくれた」
「あ、」


誰かに仕えた先で出会ったのならともかく。私から声を掛けて放浪軍となったのだから、どんな形であれ好意はあると思うのだけれど。

何度かに一度はこうした茶番が起き、その度になまえは好きではないと口にする。私を見ないように追い付かれるのが嫌だと言うように、どんどん先に行こうとする。

面倒極まりない性格だというのに、どうやら私は、このやり取りが嫌いではないらしい。


「顔が赤い。そういう意味の好きではないのだけど」
「っ、知らない」
「知らない?なまえ、荒れた感情のまま戦地に行くのはおすすめしないよ」
「狼退治くらい問題ないです!」
「飼い慣らされていない動物の方が危険ではないかなあ」
「油断はしないから!」
「あははっ、本当に可愛いものだねえ、あなたは」
「馬鹿言ってないで!郭嘉は行くの?行かないの?」
「勿論、行くよ。可愛いなまえのためだもの」


言葉を重ねるほど赤くなって。
もう耳まですっかり、染まっているじゃない。

20150122

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