想う

「まあ、賈ク」
「お久しぶりだね、なまえ殿」
「ええ本当に。こんなところに来てもいいのですか?怒られるのでは?」
「今は休むときなんだ、誰も気にはしないだろうさ」
「それならゆっくりと休めばいいものを。疲れますよ、煩い女の相手は」
「その喧しさを感じたくて来たんだがね」
「あら、余計な世話でしたか」
「そう、余計な世話」


初めてここに連れられたときは、ただの自慢なのかと思ったものだ。自分が見つけたいい女を見せびらかしたいだけなのかと。

だがなまえ殿は懇意にしているだけの、男女のそれではない相手らしく。
にしては気持ちの悪いくらい丁寧に上品に接しては贈り物を繰り返していたっけ。あとはまあ、それが真実かは置いておくとして、一人で会いに行ったことはないと言ってもいたか。

物を渡す表情も受け取る表情も、こちらが痒くなるくらい純然としていた。なんの真似だと皮肉を込めて言えば、「たまには悪くないよ」と柔らかな顔で返されたもんだから、これまた吐き気を覚えたんだったな。


「賈ク?」
「ん?」
「なんだか張り合いがないなあと。どうしました?」
「感傷、かな。なまえ殿は気にはならない?」
「何が?」
「いや」


なまえ殿は俺を賈クと呼ぶ。
懇意の男がそう呼んでいたから、自然と口にする呼び名が同じになってしまったらしい。

別に俺は気にしちゃいないが、腹が立つと変わらぬ表情で吐き捨てられた時はなかなか気分がよかった。あまり勝てた気になれない相手だったからね、みみっちかろうと構わんさ。


「――…だって、気の多い方ですよ。留まることをよしとしていないのに、いないからと尋ねるのは」
「気になってたんじゃないか、やっぱり」
「……賈ク、酷いです」
「そう言われると傷つかないでもない、かな」
「それで、郭嘉殿は」
「手が離せないんだよ」
「深く教える気がないのなら黙っていてください」
「まあそう怒らずに」


なまえ殿は、郭嘉殿からの贈り物を大切にしていた。

装飾品も身につけることなく仕舞い込んで、たまには飾って見せてほしいと言う郭嘉殿の願いすら頑なに拒んで苦笑させていたものだ。それも女心というやつか、可愛らしいと喜びそうな当人も珍しく粘っていたっけね。


「で、なまえ殿」
「なんです?」
「俺から初めての贈り物があるんだが、受け取ってもらえるかな?」
「初めて?賈クは、」
「装飾品は初めて、だろ」
「……飾り紐?」
「髪でも腰でも、まあ最悪何か吊すでも――…適当に使ってくれたらいいさ」


手に落としてやれば丸くなるなまえ殿の目。高価な、華やかに彩るものは既に郭嘉殿が渡しちまってるし、同じもので勝負したところであれの才には勝てやしない。

突き返すなんてことをなまえ殿はしないと知っていてこうするんだから意気地無しだと笑われそうなもんだね、まったく。


「たまには悪くないだろう、残るものも」
「……ありがとうございます、賈ク。大切にしますね」


そう言ってなまえ殿が見たのは郭嘉殿との思い出が詰まった箱で。
そこに並べてもらえるなら、俺も大切に想われてると自惚れてみても、いいのかね。

20130917

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