古論クリス

瞳に宿る驚きや感動、興奮といった感情を目の当たりにし、クリスは自身の鼓動が喜びで跳ねていることに気がつく。くすぐったさも連れてくるそれが愉快でもあって、「こちらも是非ご覧ください」とごく自然にこぼしていた。

クリスの言葉に反応して動く視線、正面から捉えた表情が、陳腐ではあるが少女のようだと思う。日頃の彼女からはあまり想像のつかない姿だ。


「ありがとうございます。……日頃意識して見たことはないんですけど、海ってこんなにたくさんの色があるんですね。場所とか、時間とか…クリスさんからしたら、当たり前なんでしょうけど」
「その当たり前を皆さんに知っていただく。その為に私はアイドルとなったのです。――…FRAME、東雲さんにアスランさん、水嶋さん。彼等を見て瞳を輝かせ心を踊らせた人々のような存在を、私の手で生み出したい。海という数多の神秘を内包した広大な世界で同じような高揚を感じていただきたい。そう、思っています」
「海の事を書いたファンレターも増えてきたんですっけ。写真を添えてくれる子もいるんですよね」
「はい。大変喜ばしい限りです。お次は――…こちらはいかがですか?」


クリスから写真へと視線を落とした彼女は、またその瞳に輝きを宿す。こうして少しずつ愛する世界を人々に知ってもらえるというのは、こんなにも胸をあたたかくしてくれるのか。アイドルという世界に飛び込んでからというもの、愛しいという感情が積み重なっていく。

古論クリスという存在を知り、それから海にも目を向けてくれる子がいる。朝焼けや夕暮れ、様々な海の色、そこに息づく魚たち。水族館に足を伸ばし、新たに知った魅力を手紙で告げてくれる子もいた。ミニイベントで伝えてくれる子もいた。

この愛しさに気付かせてくれたのは、プロデューサーたる彼女だ。クリス自身の魅力だと彼女は言うけれど、そのままでいいのだと道を示してくれる存在があったからこそここまで来られたのだと思う。


「――…プロデューサーさん」
「はい?」
「この手に抱えきれないくらいの幸福を与えてくださり、ありがとうございます。ファンの皆さんからいただく笑顔、歓声。ファンレターに綴られた言葉の一つ一つから感じる想い。胸を焦がす程の愛を教えていただけたこと、どれだけ言葉を重ねても感謝を伝えきれません」
「いえいえ!こちらこそ数えきれないくらい伝えたいことがあって、……でも、そんな風に言っていただけて、嬉しいです」
「おや、奇遇ですね。でしたらゆっくりと、少しずつ。互いに伝えていけたら幸いです」
「――…はい、そうですね。今後ともよろしくお願いします、クリスさん」
「当然です。雨彦や想楽共々、末永く歩んでいただけましたら幸いです」


当たり前じゃないですか。
笑顔で答えたプロデューサーの想いに恥じぬように。いつか己の舵取りで彼女を導けるように。

この船旅も目標も、決して果てることはないのだろう。それがまた、新たに生まれた幸せなのだ。


20180621

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