鷹城恭二

「恭二、大丈夫?」
「っ、ああ……」


差し出された手を取ると彼女の手は自分よりも冷たい。それだけ長い時間練習をしていたのかと、立ち上がりながらつい思う。


「悪い、慣れてきたって思ったんだが…調子に乗った」
「よくなったーって、みのりさんもピエールも言ってるよ?」
「確かに滑れるようにはなったけど。油断すると転ぶし、二人を見てると――…へこむ」
「うーん…ピエールは運動神経いいからね。みのりさんもコツをつかむのがはやいっていうか。私も転んだし、……うん」
「ああ…すごい顔してたよな、皆」


みのりに促される形でスケートリンクに降りたプロデューサーは、最初こそ手を借りて上手く滑っていたものの、一人になった途端盛大に転んだのである。恭二も含め、その場にいた全員が大慌てで彼女を呼び、ちょっとした騒ぎとなった。当然、尻餅をついただけでどこも怪我などしていなかったわけだが。

あたしと一緒だと笑う咲に、少しは気持ちをわかっていただけましたか?と荘一郎がこぼしてもいた。咲は、苦笑いと共に「そうだね、ごめんなさい」と伝えていたのだが、何かあったのだろうか。あまりに自分のことに必死で、周囲の把握も出来ていない。ああ、これも改善点だ。


「きょーうーじー?また駄目な方向に考えてるでしょ?」
「えっ……、いや、そんなことは……」
「最近の恭二は、ファンのことをしっかり考えて、それをちゃんと仕事に活かしてて…今日だって、練習しながら3人で話し合ってたでしょ?どうしたら喜んでもらえるか。イルミネーションライブだって、自分で考えて旬に提案したじゃない」
「まあそれは…盛り上がったし、成功はした、けどさ」
「それはすごくすごく大変だし、勇気がいると思うけど。もっと自分を褒めてあげなきゃ。…ね?」
「――…褒める」


プロデューサーも、みのりも。ピエールだって、恭二を誇らしく感じてくれている。それがわかるから、恥じない自分でいたいと思うのだ。そんな自分になるには足りない部分が山ほどあって、その度に顔を出す嫌な感情は、些細なことで膨れてしまう。

2人に励まされ落ち着いたというのに、まだまだだ。この思考もまた、駄目な方向、だろうか。


「……頑張るよ。けど、昔よりは好きになれてるから。…少しは安心していい。ちゃんと成長、してるからさ」
「うん」
「もっと安心してもらえるようになんなきゃな。いつも引っ張ってもらってる分、俺が引っ張ってけるくらいにはさ」
「おお!……楽しみに待ってるね」
「ああ。……約束、増えてくな」
「そうだねぇ」
「その顔でこっち見んな、……照れる……」
「あははっ」
「ああもうくそっ……かっこ悪いとこばっかだ」
「今更でしょ」
「……そうだけどさ…」


そんな人が照れてしまうくらい立派な男に、アイドルになれたなら。きっとそう思える頃には、嫌な感情に振り回される自分はいなくなっているのだろう。だからこれからも進んでいかなくては。


「プロデューサー」
「ん?」
「手、ありがとな。……プロデューサーが転んだら、次は俺が起こすよ」
「えっ、気持ちは嬉しいけど……私また滑るの?」
「散々転んだとこ見られたからな。それに、ピエールも喜ぶ」
「いやいや、……笑ったの根に持ってる?」
「さぁ、どうだろうな」


そうすればきっと、胸に積もっていく伝えたい言葉をすべて、形に出来るはずだから。


20180608

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