こたえを知らないままでいる

「何やってるの」


静かな、そして不機嫌そうな声が上の方から降ってくる。天井を見るように顔をあげると当たり前だけど蛍光灯の明かりが眩しくて、目を細めた。「…何やってるの」同じだけどより呆れた台詞が、投げられる。


「月島くん」
「あのさ、僕、何してるのかって聞いたんだけど」
「…段ボール運んでる」
「見ればわかるよ」
「えー…」
「……どこまで?」
「えっ?」
「荷物が動いてるみたいなんだけど」
「…うん?」


答えると、月島くんはこれでもかってくらいわざとらしく眉を寄せて溜め息を吐いた。きっとこれ、素直に何が言いたいのって聞いても溜め息吐かれるやつだ。


「それ、何?」
「部活で使う備品だよ」
「頼まれたの?昼休みなのに?」
「先生に会っちゃって。すぐ使いたいから、昼のうちに教室に置いといてくれって」
「自分で運ばないワケ?」
「今日、会議でしょ」
「…ああ。言ってたね、そんなこと」


だから慌ててプリントを出しに行って、そしたら先生も「丁度よかった!」って。ところで月島くんは、何で私の横を歩いているんだろう。気になって月島くんを見れば、彼は彼で段ボールを見ている。

荷物が動いてるみたい。
確かに大きな段ボールだけど、想像よりもずっと軽い。月島くんがどんな想像をしているのかはわからないけど。先生も「これしかなかったんだ」と苦笑していたし。


「教室、この階じゃないよね」
「そうだね。…知ってるの?」
「…吹奏楽部」
「……うん」
「何?」
「えっ?いやっ、何ってことも、ないんだけど…」
「よく一人で練習してるデショ。目につくから覚えたってだけだから」
「……ハイ」


だから調子に乗らないでね。何だか、そんな風に言われた気分。調子になんて乗らないし、というか、乗る要素がないし。相変わらず機嫌が悪そうだ、月島くんは。


「…大丈夫だよ、私」
「は?」
「運べる、し」
「…何も言ってないんだけど」
「あ。えっと、うん。はい、そうですね」


失敗した。ますます機嫌を損ねた、これは。月島くんはただ「荷物が動いてるみたい」って感想を私に伝えただけで、「だから持ってあげるよ」なんて言ってない。図々しい、脳内で思いっきり自分の頭を殴って、軽く目を閉じる。


「…先生も、何で頼んだんだか」
「私が都合よくそこにいたからかな」
「どう見たって、そんな段ボール運ぶような体格してないデショ」
「力はある方だよ、私。月島くんよりあったりして」
「はあっ?」


月島くんと私は、そんな軽口が通じるような間柄じゃないでしょうが。これは脳内で頭を殴るだけじゃ足りない失態だ。歪みに歪んだ表情、大きく吐き出された溜め息に、死にたい気分になる。


「……いや、」
「どっかの体力バカ程ではないけど、君より弱いなんて有り得ないんだけど?」
「そうだよね、調子に――…わっ!」
「音楽室?」
「う、うん」
「鍵、持ってるデショ。見ての通り両手塞がってるから、来てもらわないと困るんだよね」
「あ、うんっ、あの。ありがとう、月島くん」
「別に」


体力バカって、日向くんと影山くんのことかな。何か言ってた気がする、前。

何となく頭が出るだけの私とは違って、月島くんはちゃんと荷物を運んでるように見える。いや、荷物が動いてるみたいって言葉に納得したわけじゃないけど。


「そろそろ階段だから、足元、気をつけてね」
「ちゃんと見えてるよ」
「月島くんってバレー部だっけ?」
「そうだけど」
「私ばっかり見られてるのもあれだし、見に行ってもいい?試合とか練習とか」
「嫌だ。あのさ、静かに出来ないの?」
「何も喋らないのも寂しいじゃん」
「……あっそ」


月島くんだって色々話しかけてきたのに。いや、話しかけてきたって言えるのかな、あれ。


「――…何」
「あ、いや。…何でも」


月島くんって、難しい。


end.

20150921

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