あれあらら?

「及川くんっ!!」


あれ、何で天井見えてるんだっけ。確か俺はお決まりの自主練をしていて、隣で律儀に付き合ってくれてた岩ちゃんが忘れ物したとか言うから、戻って来たら切り上げるかーなんて思ってた気がする。

試合中の雑念は岩ちゃんの怒りのスイッチを押す行為なわけだけど、ふと急にウシワカだったり飛雄だったりが浮かんできて盛大にサーブをミスった。だから天才って嫌いだよ、人の思考まで邪魔しやがって!
まあよくないけどそれは置いといて、あれだよあれ、虫の居所が悪かった。ていうか悪くなった。それで普段は絶対にやらないのに床に思いっ切りボールを叩き付けちゃって、うん。


顎への衝撃ってヤバいんだね。頭真っ白、そういや及川さんって力強いんだよ。殺人サーブ、チビちゃんには大王様、大王様って強そうだよね。王様より上なわけ。ザマーミロ飛雄。
まあそうじゃなくて。直撃して真っ白から意識はぷっつり、気が付いたらなんか、ぶっさいくな顔して泣いてる女子と青筋浮かべた男子がいたんだよ。


「……体育館」
「おう」
「岩ちゃんお帰り、で、なんで、」
「受験勉強だと。担任と話もしてたらしくて、教室戻ったらいた」
「ああ、そうなんだ…」


ぐずぐず鼻を鳴らしながら大号泣してるみょうじちゃん。同じ中学出身で中三のとき同じクラスだったこの子は、中立と言いながら飛雄擁護派だった。

女バレではなかったんだけど、たまたま外周でもしつこい飛雄にお決まりの台詞を吐き出したところに遭遇しちゃって。それから「後輩の飛雄くん」が心配でバレー部覗くようになったんだよね、飛雄に声掛けるためだけに。いつも30分もしないうちに飛雄に手を振って帰るんだけど。及川さんじゃなくて飛雄に。女子に人気のイケメン及川さんじゃなくて、クソ鬱陶しい可愛さのかけらもない鳥頭の飛雄に。意味わかんないよね。


「途中まで道同じだろ。暗いから一緒に帰るかって話になったんだ」
「…岩ちゃん優しい、惚れちゃうねコレ。及川さんには敵わないけど」
「あ?」
「よかった、いつも通りだ及川くん…」
「よかったな及川、いつも通りだとよ」
「え、みょうじちゃん酷くない?普段の及川さんはもっとカッコイイでしょ」


飛雄擁護派だったみょうじちゃん。何かと飛雄を気にかけていたみょうじちゃん。悪いって言いたいわけじゃないし、今になって思えば影山飛雄は人の輪から外れやすいというか、自分をそこに嵌める気がないやつだったんだろう。我が道を突き進むというか、自分がそうと思った道しか見えてないというか。それが俺やら他の人間を苛立たせるんだよね、きっとさ。飛雄本人が気づいてるかは知らないけど。

そんな飛雄に、みょうじちゃんはどんな話をしてたんだろう。一緒にいるなとは思っても、聞いてみたことなんてなかった。飛雄の話するの嫌だったし。
でもだからって、飛雄を気にするみょうじちゃん丸ごとを嫌いになりはしなかったな。そこまで子供じゃなかったってわけだ、俺も。


「及川くん、起きれる?」
「あーうん、いける」
「手、いる?」
「平気だけど…うん、借りる」


握ったみょうじちゃんの手は小さくて、まさに女の子の手って感じだ。

あれ、岩ちゃんが何も言わない、呆れたような顔もしてない。別にさ、言ってほしいわけじゃないけど。大半の人間は罵られたりボール受けるより、褒められたいに決まってるし。


「――…」
「及川くん?」
「…ぶっさいくだなあ、みょうじちゃん」


だけどすっごく可愛く見える。不思議だよね、これって結構。

人の顔が、例えば同じ表情をしてても憎たらしく見えたり悲しく見えたりするのは、見る側の気分だったり相手に対する感情だったりが関係するんだと思う。
だから俺には岩ちゃんは憎たらしくは見えなくて、飛雄が憎たらしく見えることが多いんだ。悔しいって唇噛み締めて泣きそうになるとこ超見たい。これも至って普通の健全な反応ってことだね、うん。

なら、フォロー出来ないくらい溢れてる涙と垂れてはいないけど鼻を鳴らす、どちらかと言えばぶさいくだって意見が多そうな顔が可愛く見えるのは。


「好きかも、俺」
「えっ?」


カッコつけてられるのが勿論いいけど。カッコ悪いとこも見せられるような顔というか、みょうじちゃんのことが。



end.

20141029

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