フラミンゴピンクの海辺

ガタンゴトン、電車が揺れる。今日は部活は休みらしく、玄関で偶然会って話していたら二人で海に行くことになってしまった。

あれ、と思ったのに何も言わなかったから。だから今、私はこうして及川くんの隣で及川くんと電車に揺られているのだろう。


「今更だけど暇だった?ま、何も言わなかったから暇だったのか」
「予定はなかったけど」
「だよね〜よかった」


間延びした声。
だよねってなんだ、だよねって。及川くんが私の予定を把握しているわけがないから私が暇に見えたってことだろうか。いや、見えたのか。確認にしてもこの言い方だし。つい、すぐそこにある及川くんの手をつねりたくなったけどそれは我慢。悪気はないんだ、多分。


「…海って季節じゃなくない?」
「見たくなるときってあるじゃん、海に限らず」
「泳ぐわけじゃないんだ」
「え?及川さんに水着姿見せたかったとか?」
「………」
「…冗談だからさ、ジト目やめよ?」
「見たいからって、一人じゃなくていいの?」
「一人って気分ではなかったんだよね。バレー部とって気分でも」
「……そっか」


先手を打たれて、どうして私なのかってことまで聞きにくくなってしまった。

及川くんは岩泉くんには何でも話して、岩泉くんも及川くんの色んなことに気がつくイメージだったから、何かあるなら二人で解決するんだと勝手に思っていた。まあ、これは松川くんによって出来上がった幼馴染み(らしい)二人への勝手な像なんだけど。


「海に行くならやっぱり女の子とだよね〜」
「部活の人達と行っても楽しいと思うけど」
「二人ってなると女の子じゃない?」
「確かに、まあ」
「みょうじの場合は男子か」
「……」
「え?どうしたの?」
「いや。みょうじって呼ぶんだ、って」
「そうだよ〜、呼んでなかったっけ?」
「…どうだろう」


何だか、自分が及川くんの身近な人間になった気分。普段は名前なんて呼ばずに「ねぇ」って言われることが多い、のに。

別に、呼ばれて困るわけじゃない。許可だって必要ない。ソワソワするのは、この状況に慣れないからだ。何時もとは違う路線、隣にいるのは時間が合えば一緒に帰る友達じゃなくて及川くん。しかも帰るんじゃなくて海に行く。私と、及川くんで。


(そりゃ、落ち着かない)


及川くんはうちの学校では女子に人気の高い人だ。あれはファンクラブって言った方がしっくりくる。教室にいてもしょっちゅう「及川く〜ん!」って廊下から聞こえてくるし、差し入れという名のプレゼントをもらっているところも何度も見た。

しかも及川くんは高校生バレーボール選手としてもそこそこ有名、らしい。雑誌は読まないからわからないけど、ニュースで見てビックリしたことがあったっけ。暫くはその話題で持ちきりだったなあ。


「みょうじ、海見えてきたよ」
「――っ、あ、本当だ」
「聞いてなかったでしょ」
「…何か言ってた?」
「何も。みょうじがぼーっと前見てたから、俺も黙ってました」
「そっか。……ごめん」
「いいよ別に。話があったわけでもないし」
「…うん」
「うん」


突然やわらかさを増した声にちらりと、様子を伺うように及川くんに視線を送る。横顔からは感情を読むことが出来なくて、よくわからないけど不安になった。今この瞬間に限らず、及川くんのことなんて詳しくないのに。


「…海に行くなら女の子って、この時間じゃ泳げないでしょ」
「足浸けるくらいは出来るじゃん」
「でも帰りも電車だよ」
「拭けばいいよ」
「タオルは?」
「んー、なかったかな?」
「行くって言ったのに、なにそれ」
「あ、笑った」
「あ…えっと、」
「責めてない責めてない。よかった、嬉しいなって話です」


もう少ししたら空も海もオレンジになって、藍色になって、真っ暗になる。夕方と呼ぶにはまだ早い気がする時間帯の空は、言うなればピンク色だ。

そんな、ふとした時にしか意識をしない風景がやたらと眩しく感じられて、思わず目を細めてしまう。


「――…綺麗だね」
「えっ?あっ、ああ、うん、綺麗。空もだけど、海も」
「あははっ、そっちか〜!まあね、綺麗だ」
「なに、だって及川くんが海って…!」
「ハァイ、落ち着いて〜。ほら降りるよ。手貸しな、みょうじ」
「やだよ恥ずかしい、」
「一緒に来てくれたついでに、もうちょっとだけ聞いてくれてもいいじゃない」


車掌さんが駅名を告げる。

それに肩を揺らすと及川くんが口を開けて笑うから、もう、色んな恥ずかしさで爆発してしまいそうだ。



end.

20150802
ぼくら主演サイレント映画
提出。

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