※男主
見るからに痛々しいというのに、朱義封という男は不機嫌そうに眉を寄せている。痛みからでない。そう断言できるのは、直接「お前には助けられたくなかった」と言われてしまったからである。
だから、寄せられた眉はなまえに対してのもの。庇われたという事実と今こうして訪ねに来たという事実。そのどちらもが朱然に屈辱を与えているのだ。
「…申し訳ありませんでした」
「何で謝るんだよ。お前は味方を助けて謝るのか?」
「いいえ。当然の行動ですから」
「だったら謝るなよ」
「朱然には、不快だったようなので」
「ああ、不快だ。でもあれくらい何とか出来た、なんて言い訳はしない。実際手を貸してもらわなきゃ死んでたしな。お前の力があったからこそ怪我で済んだんだ」
「いや、…ありがとうございます」
「何で礼を言うんだよ!お前のこと褒めたみたいだろ!」
「え?だって…」
「違う!違わないけど違う!!」
治療を担っていた薬師が苦笑する。それになまえが目配せをするとまた朱然は不機嫌そうにしてみせた。自分の行動が間違っていたと微塵も思いはしないが、様子を見るのは控えるべきだったかもしれない。
生きていることは知っていたのだから、大人しくしていてもよかったのかも。真剣に考えたところで、起こしてしまったものは消えないのだが。
「――…助かった。ありがとう、なまえ」
そんなことを考えていると不意に聞こえた謝辞。間違いなく朱然から零れた言葉に、なまえはつい目を丸くしてしまう。
「…いいえ。助けたかったから、助けたので」
「同じだよ、俺が言いたいから言うんだ。…それに。お前のことはそう好きじゃないが、だからって善行まで不快に思う自分自身の方が嫌だからな。それだけだ」
言うだけ言って今度こそ逸らされる視線。これはもう本当に、相手にしてもらえないかもしれない。ならば長居は無用だ。無事は見届けたし元気そう、なまえとて親しく交わりたいと思っているわけでもないのだ。訪ねた主な理由は、呂蒙に伝える必要があるかと思ったからで。
「では失礼します、朱然。…何か欲しいもの、ありますか?」
「ない」
「思いついたら言ってください。持ってきます」
「どうやって知るんだよ」
「明日以降も来ますので。暫くは安静でしょう?」
「………来るのかよ」
それでも話してみたくなるのは、偏に彼の素直さ、なのだろうか。
end.
20140110