※爪先まで甘くなるわ

※現代

「悪いっ、待たせた!」
「いーえ、大丈夫。朱然先輩はモテモテだから、待たされるって思ってました」
「嫌な言い方するなよなー。別に女子じゃないし……うわ、自分で言ってて落ち込むな。男子でも意味合い違うだろって、そういうあれだよ」
「わかってるよ。よしっ、帰ろ」
「ああ」


義封はモテる。モテるといっても女子ではなく男子に。先輩からは可愛い後輩、同級生からは付き合いやすい面白い奴、後輩からは頼れる気さくな先輩として。女子からの評価も悪くはないけど、恋愛を含んだ好意となると後輩だろうか。
突っ走るところも多々あれ、義封は人を気にかける。声を掛けて緊張を解してあげる姿を直接見たことだってある。そこも含めて惹かれた身としては十二分に理解出来てしまうのだ、好きになって振り向いてほしくて、そして少しだけ期待をする子の気持ちが。

義封はその度に断るらしい。らしいというか、「お前がいるんだから当然だろ」が義封の言葉なんだけど。「大事な可愛い彼女がいるから付き合えない」とか何とか。名前まで丁寧に伝えるらしく、一部で私は有名人である。


「たくさ、何が朱然先輩は誰かにチョコあげるんですかー、だよ!ちゃんと三倍返しするからくださいって男に言われても嬉しくないっての!」
「違和感なく浮かんだ、その光景。やっぱりモテモテじゃないですかー、朱然せんぱーい?」
「俺は貰う方だって言えばお返し期待してますだろ?本当に…それで渡すのがチロル一個ずつってどうなんだよ」
「あははっ!可愛い後輩じゃない。そう言って一人一人にちゃんと返すのが皆の朱然先輩だもんね」
「まあ好意だしな。俺だってあいつらは可愛いし」
「うん」


どちらからともなく手を繋ぐ。身長や体格に反して義封の手は大きくて、弓をよく引くからかところどころに豆がある。私は義封のこの手が好きだから、カサカサでも豆だらけでも文句は一つもないんだけど。


「………」
「………」
「…でもさ、全員で買いに行ったのか一つも被ってないんだよな。何返すかな…ま、飯に連れていってもいいんだけど」
「三倍返しだから容赦なく頼まれるよ?」
「その三倍返し、誰が言い出したんだろうな。そういや塾の友達がさ、やたらと今日気にしてて。どうにも貰いたい相手がいるらしい」
「そうなんだ」
「そう。黒髪美人って言ってたっけ。興味はあるけどどうせなまえが一番可愛いからなー…」
「義封恥ずかしい。いや、今日も義封は義封だわ」
「何だよそれ」


幸せだなあ、と思う。
これだけ色んな人に好かれてて、少なからず恋愛的な好意を抱いている人もいて。そんな人の想いを私がもらっているんだ。手放したくなくて、思わず握った手に力を入れる。一瞬、義封の視線が手に注がれた。


「そのままだよ」
「そうかよ。褒められたんだな、つまり」
「そうそう、褒めたの」
「………」
「………」
「…その、さ」


吐き出して、沈黙。探り探りの声色につい鞄を持つ手に力が入った。今日は何の日、そう、バレンタイン。後輩が義封にねだったり、結局あげていたりする。もしかしたら義封に渡した女子もいたかもしれない。だとしても、断ってそうだけど。


「……はい」
「…なまえは、親兄弟に渡したり?」
「…夜にお父さんに渡すつもり」
「まだ誰にも」
「渡して、ない」
「……そっか」


黙ってるのは苦手だと、そう前置きがあってから告白をされた。その義封にしては回りくどい尋ね方だ。私だってね、持ってはいるんだよ、ちゃんと。


「………最初は、義封に渡したくて」
「なら、」
「だって!だってさ、この話の流れで渡したら!…こう、言われたから渡しました感?」
「ないだろ別に!」
「あるの!私は義封に渡したくて渡すんだから大事なの!というか私が渡す前にチロル貰うな!!」
「お前それ八つ当たり、」
「もーっ!ちゃんと渡したかったのに義封の馬鹿!でもあげる!」
「渡し方……ありがとう、なまえ。嬉しいよ」


ああ、好きだなあ。
照れたように笑う顔、優しくなる声。握り直した手が、一段と熱くなった気がする。



end.

20140214

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