そんぐらい好きになっちゃってんの

三年間同じクラスの黒田くんは、校内どころかその道では王者と名高い自転車競技部の一員だ。しかも、三年という最高学年になって副主将に任命されたらしい。


「黒田くん」
「あ?」


隣の席の黒田くん。三年間クラスは一緒だけど、席が近くなったことはあまりない。話すのは、そりゃまあ三年間一緒だから多少はというやつだ。シャーペンの痛くないほうでつんつん突くと律儀に彼はこっちを見る。その行動が、私は好きだ。


「おめでとう」
「……は?」
「インターハイ」
「…………」
「やったね」
「…おー」


もっと笑うかと思ったのに、黒田くんはちょっと照れ臭そう。

出会った一年生のころはとにかく目立つ人で、とても華があった。当時二年生だった東堂先輩とはまた違った華やかさ。「わあすごい、かっこいいんだろうな。うん、かっこいい、スポーツ何でも出来て勉強だって出来る」と思いながら、私は黒田くんが苦手だった。

いや、今だから言うけど、東堂先輩の「オレは出来る人間だ、モテる人間だ」って雰囲気と黒田くんのそれは同じようで違ったのだ。東堂先輩のはすごいなあと流せても、黒田くんのは何だか引っ掛かるというか、ちょっと嫌味っぽかったというか。「一年のころの黒田くんって」と困ったちゃんの真波山岳くんの話を聞かされたときに零したら、頬を染めて「それはやめてくれ」と言われてしまったので、本人としてもそれなりに恥ずかしい過去なのかもしれない。


「つか、何で知ってんだよみょうじは」
「それはほら、箱根学園自転車競技部のことですから。噂はあっという間に」
「なんだそりゃ」


黒田くんが変わったのはいつからだろう。嫌味っぽかった自信家オーラは薄れ、気がつけばただのスポーツが出来て勉強も出来る万能な人になっていた。勿論、口が悪かったり短気なのかなって思ったりもするんだけど。それでもなんだろう、こう、男子高校生っぽくなったというか。


「黒田くんはメニュー考えてるの?」
「ま、塔一郎とも擦り合わせんだけどな。今年は王座奪還もかかってる。先輩達と掴みたかった夢、オレ達が実現するしかねーし」


一年生のままの黒田くんじゃ、きっと副主将になんてなれなかったんだろう。黒田くんを変えた人って誰だったのかな。その人にお礼を言いたいのに。いや、何で私が言うんだって話なんだけど。


「…頑張って、黒田くん」
「ったりめーだ」
「黒田くん」
「まだあんのか?ちゃんと自習しろよ」
「言いたいことがあるんだけど、聞いてもらっていい?」
「今?」
「んー、インターハイ終わってから」
「は?…わーった、聞くよ。そっちに集中しすぎて忘れるかもしんねーから、終わったあとに顔合わせたらもっかい言えよ、言いたいことあるって」
「うん」


あのね、黒田くん。三年生の黒田くんには華がないって言いたいんじゃなくて。

私にはね、一年生からどんどん、黒田くんが輝いて見えるようになったんだ。それをちゃんと形にして「あなたが好きです」って伝えたいから。

そのとき全部聞いてください、黒田くん。



end.

20140524

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