ぎゅう

いいのかなあ、と思うのだけれど、こういうときは聞かないものだとなまえは以前、恥ずかしげに視線を逸らしながら口にした。今はその、こういうときで間違いないだろう。


「…ええっと…」
「なに」
「いや、何でも」


雰囲気を察するのが苦手というより、察した瞬間に沸き上がる感情に不安を抱くと言うべきか。取り巻く空気はそうすべきだと徐庶に訴えるのだが、徐庶は何事においても悪い方向に考えてしまう嫌いがある。
前向きになれないのだ、どうしても。前向きに行動して取り返しのつかない事態を招いてはと、そんなことばかりを考えてしまう。


「……」
「…黙って見られても、どうしていいかわからないんだけど」
「君はどうもしなくても――と、いうより、されない方がいいかな」
「え?」
「ああいや、されないのもそれはそれで…」
「どっち」
「…すまない、俺も上手く説明が出来ないよ」


例えば抱きしめようと動いて押し返されたり、口付けようと顔を寄せたら頬を張られたり。
そんな行動は控えていただきたいのだが、受け入れてもらえたあとに自分の気持ちだけが動くというのも何とも言えない。一人だけ気が逸っているようで恥ずかしいではないか。受け入れたのならなまえからも反応がほしい、というか。

つまりはそういったことを考えているのだが、なまえに嫌われることは避けたいので口にはしない。結果徐庶は、なまえに伝えたいことばかりが蓄積されている状態なのだ。させられているのではなく自らしているので、誰を責めるつもりも毛頭ないが。


「――徐庶」
「な、」


なるべく優しく、気持ちの悪いやつだと思われないように。間違いなく笑顔はぎこちないがなまえは徐庶の顔を一瞥しただけで視線を落としてしまう。

丁度、徐庶の胸のあたり。額を甘えるように擦り付けて、伸ばした腕で徐庶を捕らえるようにする。つまりは抱き着かれている、のだ。


「…………なまえ、…えっと」
「腕」
「うでっ?」
「私だけじゃ変でしょ」


また、額を擦り付けて。
ああやはり遠慮するだけ無駄だったのかと、一歩踏み出しきれない自分につい苦笑がこぼれ落ちる。


「情けないな、俺は」
「裏返ってたしね」
「……言わないでくれ」


言われたからじゃなく、本当はこうしたかったんだ。

心に浮かんだそれはまるで、言い訳だ。



end.

20140707

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