がるるる

あれは一般的に睨んでいると呼ぶ、間違いなく。つまり私は嫌われているのだろうか影山くんに。

思い当たることといえば、どうにも人付き合いが得意じゃないらしいから事あるごとに話しかけてみたり、自販機のところでよく会うから「結局いつも同じの買っちゃうんだよね」なんて話をしてみたくらい。
くだらないことでいちいち話しかけて来る鬱陶しい先輩だと思われたのだろうか。だからって睨まなくても。


「どうした?みょうじ」
「…菅原さん」
「そんなに嫌だった?モップがけ」
「あ、いえ!まったくこれっぽっちも!」
「そんな風に言われたらやっぱ嫌だったんかな〜とか思うべ、普通」
「えっ…いや本当に!嫌だなんてことあるはずないです!」
「はははっ!んな焦んなって、冗談冗談」
「……あ、あはははは…」


人懐っこい笑顔を浮かべると、菅原さんはネットを綺麗にまとめて倉庫へと歩いていく。まずはあっちを解いて整えておくべきだったかな。
私が手伝いはじめた頃には当然もう潔子さんがいて、彼女ほどとは言わずとも少しは部員の力になれたらと思っていたんだけど。

今年入部の一年生よりは烏野バレーボール部先輩、田中や西谷に比べたら後輩という微妙なポジション。別にそんな細かいことを誰かに指摘されたわけではなく勝手に落ち込んでいるだけだけど。まだ私自身ソワソワしていた頃だ、影山くんに話しかけてみたのは。「っス」とか「はあ」くらいしか返してくれなかったのが会話になって、また最近はぎこちない。しかも睨まれる。距離をとるべきなんだろうか。


「みょうじさん、突っ立ってると掃除できないんですけど」
「あ!ごめんっ」
「いいえ、別に」
「さーっとやっちゃわないと帰れないしね!大地さんにも怒られちゃう」
「………」
「…月島くん?」
「わー、先輩器用ー。頭に埃ついてますよー」
「えっ、あ、取ってくれた?ありがとう、月島くん」
「いーえ。じゃ、失礼します」


月島くんから絡んでくるとは珍しい。不安になって頭を数度払うとこっちを見ていた月島くんが笑った。

ちょっと失礼だよね、あの子は。そういえば月島くんがどこか嫌味っぽく笑うようになったのも、最近か。月島くんにも何かした覚えはないんだけど。


「っ、みょうじさん!」
「うをっ!?」
「あ、すんません、えっとあと、重くないっスか!」
「おー影山くん…いや、大丈夫。重いって?」
「………モップ、とか…」
「モップ?ああ、モップは平気だけど。ありがとう」


切羽詰まったような声、やっぱり逸れる視線に尻窄みになる言葉。影山くんから話しかけてくれたことに浮上したテンションはそれだけで簡単に落ち込みはじめる。

認めてるつもりだったけど、私影山くんのこと大好きだな。だけど影山くんの目は鋭くなる。普段からそうといえばそうだけど、最近の睨む感じ。


「王様ー、みょうじさんモップなら毎日持ってるんじゃな〜い?掃除当番あるデショ、部活だけじゃないんだし」
「うっせー月島!」
「僕に当たらないでよ。ダサーい王様」
「っのやろ…!」
「影山くん」
「なに、」


ギロリと肝の冷える目。月島くんに向けられていた苛立ちがそのまま私に。思わず体が跳ねる。

影山くんは一瞬、困ったような顔をした。


「――あ、」
「…えっと、手伝おうって思ってくれたんだよね。ありがとう、嬉しかった」
「…………っス、」


今にも唸り出しそうな顔。
助けようとしてくれるんだし嫌われないと思っても、私はそう、思いたいんだよなあ。



end.

20140708

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