玉響

喧噪、といっても、活気に溢れた心地の良いものだ。大人しくしていることに飽きたのか、宗茂様は唐突に「城下に出る」とおっしゃって。

確かに行動は制限されていないけれど、太閤様は宗茂様のお話を楽しみにしておいでのはず。宴までに戻るという言葉に嘘などありはしないが、お変わりない様子に驚くというか肝を冷やすというか。緊張しないのだろうか、このお招きに。


「見ろ、なまえ。馬がいる」


団子を半ば強引に与えられ、見世物小屋に連れていかれ。宗茂様に言わせれば時を気にしすぎている私は、やはり空ばかりを見ていて反応が遅れてしまった。

何故こうも大らかな気持ちでいられるのだろう。恐らくギン千代様がいらしたら、私が言葉に出来ぬことを口にしてくださったろうに。確かに宗茂様の魅力とは容易く動じぬ様にあるとは思う、のだが。


「馬?」
「うん、綺麗な馬だ。よく手入れされている。ほら、…見えないか?あの先、宿かな。その近くに」
「宿?その宿を見付けることが、私の丈では難しく……」
「ああそうか、確かに。ならば間から――…いや」
「やはり厳しいかと…、宗茂様?」
「こうしよう。手っ取り早い」
「こう?――っ!?」
「見えたか?」
「見えっ、ましたが!」


あまりに軽々と持ち上げられた体を支えるのは宗茂様の手、同じく軽く尋ねるのも宗茂様である。程近くで響く声、下方へ視線を送ると想像以上に至近で目が合ってしまった。

宗茂様はお変わりなく、周囲からは驚きや好奇の目を向けられ。これでは私が見世物、恥ずかしさで顔が熱くなる。


「どうした?」
「どうって、ですね!これでは晒し者ではないですか!」
「晒し者は酷いな。見えないと言うから見せてやりたくて、」
「お心遣いは痛み入りますが――…宗茂様っ、お願いですから下ろしてください!」
「ん?馬はいいのか?」
「はい!」
「そうか。まあ、お前がいいのなら」


私の焦りなどどこ吹く風、急ぐ様子もなく私を下ろした宗茂様は「見事だっただろう」と微笑みさえ浮かべておいでだ。このようなことを悪意なく、他意なく行うからこの方は、本当に。


「宗茂様、殿が斯様な行動は。お止めください」
「だが見せたかったんだ。仕方がない」
「そうではなく……周囲の目も、ですね」
「…何だ。恥ずかしがりなんだな、なまえは」
「恥ずかしがりとかそういう問題では…」
「そうか?」
「……」


出来事としては恐らく瞬くような。間近に感じたあの時は、毒だ。


「いい馬だったな、なまえ」
「…ええ。大変美しかったです」


猛毒だ。


end.

20140213
20200805修正

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