待宵

「わっ」
「っ、」


いったい何処から出てきたのか、突然視界を覆った猫のような少女に息が詰まる。なまえが見ていたのは外、足をかけられる場所などあるかも怪しく、並の人間では体も支えられないだろう。それを少女は意図も容易く。驚きと恐怖につい、窓から数歩後退してしまう。

そんななまえの様子に笑みを零した少女は、更に驚くことに軽々と身体を反転させなまえと向き合ったではないか。先程までなまえが肘をついていた場所に腰掛けて、楽しそうな表情を浮かべる。それが却って恐ろしい。少女の笑顔は、何を考えているのかさっぱりわからないのだ。


「にゃはははっ、こんな夜更けにまーったく警戒心がないにゃあ。それじゃ、何時誰に殺されても文句言えないよ?」
「……殺されては物も言えぬではないですか。えっと…」
「くのいち。覚えやすいと思うんだけど」


首を傾げる少女に「そう、くのいち」と告げればにやついたとも取れる表情をしてみせた。もしかして、そう呼ばれることが好きなのだろうか。考えるが、当然なまえにはわからない。


「お月見って時期じゃないでしょ」
「そんなこと、ないです」
「だって今日は見えないもん、絶対に」
「……何の話を?」
「何だろうね〜」


先程までなまえが見ていた方へ視線をやると、くのいちは口を閉じてしまう。漂う空気に、なまえは妙な心地を味わうに至った。くのいちに気にした様子は一切見られないため、なまえが勝手に感じているに過ぎないが。


「くのいち、は、何なのですか?」
「ん〜?何って?」
「何者なのかと、何をしに来たのか、と」
「名前の通りの忍で、ただ暇潰しにきただけ、かにゃあ?ここにお仕事しにきたわけじゃないよ〜」
「し、信じると?」
「信じそうだよねえ」
「…………」
「にゃは〜、図星!でも本当だって。遊びに来たら楽しそうだなって思っただけだから」


忍とは、こんな風に親しく交わる存在を作るものなのだろうか。まず、忍でなくとも己の情報を簡単に他者に開示したりはしないはず。信用されたいとでもいうのか、なまえに。されたとして、くのいちの利益になるというのだろうか。そもそも遊びに来たら楽しそう、とは。くのいちの砕けた態度に、なまえは混乱するばかりだ。


「あたしで残念だった?」
「え?」


混乱の最中の問い掛けに、思わず間の抜けた声が出る。にゃはは、短時間の関わりでも口癖だとわかるそれが、飛び出した。


「あたしの相手してる間に通っちゃったかもーって思った?」
「な、何を言っているんですか、あなた」
「簡単にわかっちゃうんだなあ。あ、忍じゃなくても、かもね。わかりやすいから」


にやり、なんて。
忍は皆、こんな風に笑うのだろうか。あの人も、こんな風に。

過る想いを、読まれていなければいいのだが。




20130914
20200806修正

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