春一番

※現代

つい溜め息が零れ落ちる。すると豊久は、目を真ん丸にして私を見た。

やたらと内面を主張するような目は少し苦手だ。年々強くなってくるから、余計に。それに、義弘さんは笑うけど、数年前と今では明らかになつくの意味も変わっているから、やりにくくて堪らない。


「悩み!?」
「何でそんなに嬉しそうなの」
「いやっ、だって俺が解決してやれるかもしれないし!」
「……。悩みではない」
「え?…あ、そうなのか」


急速に下がった声のトーンに露骨にガッカリした表情。これだから「島津くんって可愛いですよね」なんて言われるんだ。その度の全力の否定がますます可愛いを強める。「なまえはかっこいいって思ってくれてる!?」の確認が私の苦手のひとつだとは思いもしないんだろう、豊久は。


「豊久、そわそわしすぎ」
「そっ、そわそわはしてない!」
「いやいや。……宗茂さんさ、彼女どころか奥さんがいたんだね」
「は?立花?」
「奥さんというか奥さん候補?婚約者?考えてみればギン千代と宗茂さんって顔似てないし、あれを兄妹だって考えるのが変だったんだよね。深く考えたこともなかったけど、お互いに対する態度もさ、変じゃん。兄妹にしては」


そこまで一気に吐き出すと、豊久は眉を寄せて困惑したような表情をしてみせる。何だ、どうしたの。そんな意味を込めて豊久を見ると、いつもは煩いくらいに突き刺さる視線を逸らされてしまった。

わかりやすい、実に分かりやすい反応。成る程つまり豊久は、だ。


「………知ってた?」
「…というか、知らなかったのか、なまえ」
「教えてくれてもよかったじゃん」
「なまえは知ってて立花のことが好きなのかと……だから俺だって、頑張れば立花よりも好きになってもらえるって思って、」
「そこまでストップ豊久」
「……何だよ」


唇を尖らせながらむくれるのは子供っぽい。豊久はいつまで経っても年下感が抜けないから駄目なんだよ。恋愛だなんだって考えたときに、弟に恋をされているような気持ちになるから。

宗茂さんと豊久を比べたら断然宗茂さんが大人で、例えば宗茂さんなら子供っぽいところがギャップになってときめくんだ。豊久が同じことをしても、ああ子供だなって、そう思うだけで。


「豊久は弟だよ」
「俺は弟のつもりなんてない。それに、立花に振られたならなまえが俺を弟って思う必要もなくなったってことだろ。ちゃんと、島津豊久として見てくれるってことだ」
「……宗茂さんが好きだから豊久が弟ってことはないんだけど」
「大丈夫!俺も島津の男だ!島津は全員いい男だし、立花なんかには負けない、絶対に!」
「まあ確かに、豊久のお父さんとかおじさんはかっこいいよね。宗茂さんの家系もだけど」
「だから来年の今頃には俺のこと、立花よりもずっといい男だって言わせてみせる!覚悟しろ!負けないからな、なまえ!」
「え?勝ち負けなの?」


負けないからな。そう言って鍛えて、軽々私を持ち上げるようになったのはいつ頃だったろう。

豊久は勢いに任せて発言するんじゃなく、言葉にしたからにはどんなことでも現実にしてしまう。曰く、「島津の男は嘘は言わない、有言実行だ!」らしい。そこに「負けないからな」が加われば、もう最強じゃないか。それって本当に、私には逃げ道がないってこと、なんじゃ。


「勿論!なまえを好きな気持ちは、誰にも負けない!」
「答えになってないし、それ」


内面を主張する目、意味合いの変わってきた、なつく。私の逃げ道を塞いでしまう主張とそれから、負けないの声。

強風みたいな台風みたいな豊久が、苦手だ。

宗茂さんへの淡い憧れが砕かれたのに容赦なく荒らしていく、豊久が。


end.

20150301
20200805修正

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