小ネタ | ナノ

綺麗だなあ、と、道流は言った。その言葉にタケルが頷いたことが、漣にとっては些か不愉快であったのだ。だからつい、興味などありもしない方向へ目を向けてしまったのである。


「……」


どうにも彼は、店頭に並べられたキャンディーの感想を述べたらしい。新商品、と書かれたポップと色とりどりのそれ。赤色は、黄色は、恐らく色に対応した意味が書かれているのだろう。


「アメはアメだろーが。ンなもんで運が決まるかっての」
「そうか?可愛いと思うけどな…ははっ、ハートの形をしたのもあるのか。入っていたらラッキー、だとさ」
「恋愛、健康、仕事…へぇ、おみくじみたいなもんか?」
「漣は前に選んだんじゃなかったか?師匠に引っ張られて…」
「あ?…ああ」


バレンタインに沢山もらったでしょう。そのお返しを、ちゃんと漣の手で。漣が考えて。

諭すようなその言葉と色合いに、苛立ちを覚えたのはもう数年前の話だ。下僕は下僕らしく指示に従えと思ったものだが、胸の辺りに渦巻いたモヤモヤとした感情はなんであったのか。テーマパークでの結婚式やら学生ドラマやら、あの座りの悪さと酷似していた、気はする。


「……チッ…」
「どうした?漣」
「あ?……別に。ウゼーこと思い出しただけだ」
「…円城寺さん、プロデューサーからだ。まだかって」
「そういえば打ち合わせ…我が儘言って作ってもらった時間だ、急がないとな。漣も、行くぞ」
「オレ様に指図すんじゃねぇよ。だいたい言い出したのはらーめん屋だろーが!」
「そのごちゃごちゃ言ってる時間が無駄だろ」
「ンだとチビ!」
「元気がいいのはいいが、可愛い店の前で騒ぐのはよくないぞ?まあここに限らず、どこでもだけどな」
「っ、すまない、円城寺さん。…オマエも」
「…はっ」


恋が叶う、仕事がうまくいく、友達との仲が深まる。たかが飴に頼るなんてくだらない。いつだって必要なのは自分自身の実力ではないか。

言えば彼女は、あの時のような微笑みを、また漣に向けるのだろうか。


20180306


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テーマ「人外ファンタジー」
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