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友よ、さようなら



昼休みも半ば、一冊のノートを片手に中庭を迷いなく真っ直ぐこちらに向かってくる人物がいる。それが誰だかなんて顔を見るまでもなく分かる。


「迅くん!」
「おう!なんだ千秋」


初夏の眩しい日差しを避けるよう小走りに、木陰のベンチで昼食を頬張っている田所まで駆け寄る。


「何だ、じゃないよ迅くん!」


はいこれ、と差し出されたノートを受け取りながら横にズレ、隣に座るよう促せば千秋は空いたスペースに腰を下ろし、少し困り眉にさせながらもぉ、とため息を吐く。


「何回も言ってるじゃん」


次いで食べかけのメロンパンを目の前に差し出せば、ありがとうと言って貰われていく。そして一口、二口とメロンパンを咀嚼しながら千秋は続きを話しはじめた。


「ノート写す時はそのまんま丸写しするんじゃなくて、ちゃんと内容を理解しながら書き写して誤字脱字があったらちゃんと直してって」


なぜそのような事をわざわざ言うのかと言えば、合宿や大会などで授業を良く公欠したり、それから時々……いやしばしば授業中居眠りをする田所の為、ノートを貸してあげていたのが発端で。しかしそれが、本当にたまたま、何の因果か運命か三年間同じクラスになったが故にそのまま毎回田所にノートを貸し続けていたら、知らぬ間に担当教諭公認の田所迅専属ノートテイカー扱いを受けてしまったからだ。


「また私が、先生に注意されたんだけど」
「ガハハ、悪ィ悪ィ」
「最近なんかもうあの先生、迅くんに言うの諦めて『沖野、お前が完璧なノートを取れ』って言われるんだよ?」


いや、確かにその通りなのだけれど元来少し不注意な所があるのに加え、あの先生の板書はスピードと量が半端じゃない。だからどうしても2、3ヶ所は漢字やカタカナの書き取りミスや脱字をしてしまう。
勿論最初こそ、田所本人に注意をしていたのだがあまりに改善がみられないため、ノート提出の度に教師から『ノートを貸すのは良いが丸写しさせるだけじゃあいつのためにならないぞ』と千秋が言われる羽目になり、こうして毎回返却されたノートを届けるついでに小言を言うのがいつしか日常になっいき、今日に至る。そしてそれが中々どうして、全然嫌ではなくむしろ嬉しいとすら思っている事に気付いてしまった時には既に手遅れ。



友よ、さようなら



いつも通り他愛のない会話をていればいつしか予鈴が鳴り、昼休みもあと10分。一人、また一人と校舎に生徒が吸い込まれていくに従って、蝉の鳴き声が大きくなっていく気がした。
千秋が田所との間に置かれた左手を、っと彼の方に近づけようとほんの少し浮かそうとすれば、ぐいっと上から大きくて肉厚な掌に包み込まれる。


「迅くん、」
「おう、」


何となく、この関係に終わりが告げられるまでもう少し。あと一ヶ月もかからないだろうなと確信に似た思いが胸を満たす。


「インターハイ、三日間全部見に行くからね」
「おう!そしたらいつも以上に目だたねぇとな!」
「あはは、期待してる」


だから、もう少しだけ友としてキミの隣にいる幸せを噛み締めさせて欲しい。インターハイが始まるその日まで。



(アレで付き合って無いってんだから意味が分からないッショ…)
(まぁそう言うな。どうせあと二週間もしないうちに付き合うようになるさ。田所は意外と願掛け何かをするタイプだからな)(願掛けって……あれで?)


(はじめまして、恋人)


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2014,12,23