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きっと今日も来ない



荒北靖友の彼女は試合を見に来ない。それが予選でも県大会でも。勿論、三年最後のインターハイでもだ。


「時に荒北、彼女は今日も来ないのか?」
「あぁ!?来ねェーヨ」
「なに!?またか!また来ないのか!?一回くらい見に来てくれても良いではないか荒北!ハッ…!もしやそんなにオレの美貌に彼女が見とれるのが嫌か!」
「セッ!バカか!」


高校三年最後のインターハイ決勝ステージの今日も、初日、二日目と同様彼女の姿は見えない。
それは今に始まった事ではなく、荒北が付き合い始めた頃からずっとな事でわざわざ今更騒ぎ立てる事でもなかった。けれど、流石に人生最後、一度きりのインターハイ決勝の日にも来てないとなっては流石に東堂も少し思うところがあったのだろう。


「ちゃんと大会の日程は教えてるのか?荒北」
「教えてるヨ!」
「では何故来ないのだ。よもや、応援しにくるななどとは言っとらんだろうな?」
「言ってネーヨんな事」
「では何故来ない!」
「しつけーなおめェも!!」


最終日スタート前。他のチームはみな各々のテント内で集中力を高めるため瞑想していたり、ストレッチやアップをして体を温めたりピリピリとした空気を漂わせている。そんな中、別の意味で体温を上げ、ピリピリしているチームがあった。言わずもがな、王者箱根学園である。


「と言うか荒北さん、彼女居たんですね」
「ははっ意外か?美人だぞ」
「意外って言うか……はい、ちょっと意外でした」
「てめェら何くっちゃべってんだ!別に美人じゃねーし!」
「ム、美人だろ千秋は」
「名前で呼んでんじゃねーよ新開!!」


先程まで東堂と口論し合っていたかと思えば、地獄耳のように目ざとく泉田と新開の会話に食ってかかる荒北は、さながら瞬間湯沸かし器の様にかっかしており、頭の上から湯気でも出ていそうだ。


「東堂、もうそれくらいにしておけ」
「フク!」
「沖野は何もわざと試合を見に来ていない訳じゃない。来れないんだ。自分も試合だからな」
「福チャン!!」


見兼ねた福富が口を開く。荒北は止める間もなく露呈してしまった事実に、小さく舌打ちをして目線を反らす。


「おぉ!そうだったのか!フクは何でも知っているのだな!」
「何でも、と言う訳ではない。沖野も主将だから、部長会議で一緒になり良く話しをするからたまたま詳しく知っているだけだ」
「主将か!凄いな!何部なのだ?バレー部か?テニス部か?それとも吹奏楽か?」
「尽八、おめさん本当に知らないのか…?」
「本当におめェは巻チャンとファンクラブの女の事しか興味ねェのな!」


同じ学年で、言ってしまえば東堂と同じクラスでもあるのに、自分にキャーキャーと言い寄ってくる女の子以外は記憶に残らないのかコイツは。いや、違う。こいつは全ての女子は自分の美貌に酔いしれ、虜になるものだと思っているのだ。だからそもそも存在を認識していない可能性が大きい。
そんな結論に達した荒北はやれやれとでも言いたそうなため息を吐く。



きっと今日も来ない



一緒に戦おうとか頑張ろうとかそんなクッセェ事を約束した事も思った事もなかったけれど、負けて感傷的にでもなっているのだろう。そろそろ表彰式だな…なんて事をぼんやり救護テントで思っていればアイツ、大丈夫かな…など柄にもない心配までも頭にチラつき始めた時だ。


「お疲れさま」


三日間走破した疲労と王者の称号を守れなかった後悔、そして納得して自ら決断した事とは言え一人、先に落ちた悔しさからベッドの縁にうなだれて座って休んでいた所に、急にベプシが目の前に現れた。と同時に聞き慣れた、けれど絶対にいるはずのない声が聞こえて来て思わずガバッと頭を上げる。


「は?えっ…千秋!?」
「間に合って良かった。ちゃんと見てたよ、今日の大会」
「え、何でいんの?おめェは試合どうしたんだよ!そっちもインハイだろ?」


状況が飲み込めず矢継ぎ早に質問を繰り出す荒北に思わずクスリと笑ってしまう。


「あ゛?何笑ってんだヨ」
「いや、元気そうで良かったと思って」


荒北は落ち込んだりする柄じゃないと知ってはいても、流石に今回ばかりは少し、落ち込んでいるのではと心配していたので、勿論悔しい気持ちはあるだろうけれど気に病みすぎていない様子を確認出来、ホッとして自然と笑みが零れてしまった訳だが、その言い訳は黙っておこう。
初めて見に来れた大会の結果は彼の望むような結果ではなかったけれど、それでも精一杯戦い抜いた姿は清々しく、とても誇らしかった。


「で、そっちの結果はどうだったのヨ」
「延長戦ゴールデンタイムも残り30秒の所で見事、内股一本勝ちで優勝もぎ取って来ましたよ」
「さァすが箱学柔道部初の女子主将だネ」


新開の奴みたいにバチンとウインクを決めながらのドヤ顔での完全勝利宣言も、なぜだかコイツのはそんなに腹が立たないのだから相当惚れているのだろう。悔しいけれど。
そんな想いはおくびにも出さず、表彰式を終えじきに煩い外野が増えるその前に、さっさとしっぽり退散を決め込むのだった。



(先程から荒北の奴を見掛けんがどこに行ったのだ)
(荒北なら先に帰るとメールがあったぞ)
(そう言えばさっき千秋が来ていたからな。一緒に帰ったんだろう)
(あ、もしかしてあの人が荒北さんの)
(ナニィ!?何故それを早く言わんのだ新開!うぉぉぉクソォォまた荒北の彼女を見損ねた…!)

((毎日学校で会ってるはずなんだがな……))


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2014,11,18