暗い夜道の冷たいアスファルト。 繁華街の煌びやかなネオンがうっすらと路地裏に差し込むが、それはどうも別世界との隔たりの様であまり現実味が無かった。スンッと空気を吸えば、通り雨が降った後の土臭い湿気が鼻孔を湿らす。外気はねっとりと纏わり付く都会特有のしつこさを含む蒸し暑さなのに、素肌が直接触れている硬くザラリとした地面はひんやりと体温を奪っていく冷たさ。今日も池袋は不寝の街だと言うのに、何故か何の音も聞こえない。 不良達の喧嘩 風俗の客引き ガキのナンパ 暴走族の爆音 一つとして存在しなく、自身の心音と息遣いだけがやけに五月蝿い。 だ す い き 、 『キミさぁ、刺された事ってある?』 『え…?』 『俺はね、あるよ』 言葉の欠片が剥離していく。 『行き成り後ろからドンっ、てねェ』 何処までも冷徹に橈る頬。 『気付いたら地面とお友達さ』 アハハハハと渇いた笑い声が愉悦的に鳴り響く。 『―――それ、で……?』 その先は自分でも驚く程冷静に奴の取る行動を理解していた。 否、理解 " 出 来 て い た " ねぇ、知ってる? 「キミさ、もう死んでるんだよ」 ドクリ、と最後の悪足掻きと言わんばかりに一際心臓が強く大きく一度だけ脈打つ。 その言葉でやっと気が付いた。私は今、アスファルトに背中を預け振り乱した髪は重力に従い身体と地面にへばり付き、雨上がりの水溜まりと下腹部と左脇腹と上腕から流れ出る大量の血液で、身体全体と自身の半径一メートルを濡らしている。 (あ…やっぱり、か……) 刺されたのは夢じゃなくて、でも、瞬間、手に掴んだ温もりも夢じゃなくて。 (…い、ざ……や、) 声にならず、口すらも動かず。それでも徐々にフェードアウトしてゆく視界の狭間に見た彼の顔は、笑っているはずなのに何故か涙が頬で煌めいていた気がした。 ―――そして暗転 (俺は人を愛してる) (だからキミの事も好きだ) (好きなのに…この涙は何、だ……?) ---------- 企画:白黒 タイトル:花影 白ver./銀魂,高杉,甘 2010,06,16 濁点 |