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そのギャップに、くらり



「私は借りた貸しは直ぐにでも返したい主義なの」
「おーおーそりゃツレ無いねぇ」
「そもそも借りなんて作りたくもない、し」
「ま、懸命っちゃあ懸命だな」
「でも…でもね、返したくない借りもあるの」
「……?そりゃどういう事だい」
「あれ?分からない?」


ふふっと不敵に笑った女は決してこちら側では無く、かといって春を売る類いのソレでも無い。色も悪意も含まぬ挑発。これはもしかしなくともアレだ。


「おいちゃんはそう言う事にはトンと鈍いからねぇ」


少しの自信と沢山の不安。けれどここは大人、と言うかオジさんとしての体面ってものがあるから余裕を呈する。


「ちゃんと言ってくれないと分からないよ」


俺もまだまだ初だねぇ…
クツクツと年甲斐も無いそんな自分に自嘲する。


「、それじゃあ遠慮無く」


ふぅと軽く息を整えてから女は次の言葉を紡ぐ。


「結婚して下さい」


驚きすぎて思わず杖を落としそうになる。「好きです」だとかせいぜい言われたとしても「愛してる」位だと想像していた自信の考えの、見事に斜め上を行った。
コイツ……
まるで昔の自分を見ている様だ。


「あれ?赤林さん聞いてます?」
「ハハ…こりゃァまいったねェ」


女に、しかも自分より一回り以上も年下の女に言わせちまうたァ……焼が回ったか。


「おいちゃんみたいなヤクザ者なんかはお勧めしないよ」


やんわりと牽制。けれどまあ、彼女を昔の自分と仮定するならそれはきっと無駄な防波堤。


「赤林さんがヤクザ者なら私は死体を喰らう鬼ですよ」


無理矢理強行突破、だ。優しく笑う顔は、先程の笑みと違い狂者のソレを甘く匂わす。
街の掃除屋さんとは良く言ったものだ。確かに、本当に色んなモノを綺麗に掃除してくれる。


「女ってのは恐いねぇ」


そう言った赤林の顔はとても愉しそうだった。どちらの笑顔に落ちたのかなど言うまでもない。



そのギャップに、くらり



季女と女の間を行ったり来たりする危うい笑みに絆された。矢張りそんな自分に苦笑しつつも女の白い手首をグイッと引っ張る。


「なら、おいちゃんはその鬼を喰らう赤鬼って訳だ」


バランスを崩し倒れ込んできた彼女の耳元で囁く。抱き寄せた胸からは驚きと少しの照れで速くなった動悸が聞こえてくる。


「っ、食あたりしない程度にお召し上がり下さい」


(久しく感じていなかった胸の熱さに)
(二度目の恋を知った)


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2010,06,13