レースのあしらわれた黒のロングスカートから白過ぎる足が覗く。生きているのか、血はちゃんと通っているのか、温もりはそこにあるのか。そう問いたくなる程の純白は、白黒の強烈なコントラストだけが原因ではない。 下腿部の下から三分の二程の位置でヒラヒラと揺れる黒い裾。キュッと程よく締まった足首と起伏のハッキリとした硬い踝。ぷっくりと極薄いエメラルドグリーン色を足の甲に淡く浮き上がらせる血管に、何も塗られていない綺麗に切り揃えられた爪。 全てが浮世離れでビスクドールの様に滑らかな肌は、けれどもちゃんと温もりはあって、それが尚更禁欲的な煽情さを彷彿とさせた。 「詰まるところ、俺は今、君に欲情してるって事なんだ」 「……言っている意味が激しく理解不能です」 「だから、今にも俺の自身が熱くて白い欲望を孕んでゆっくりと主張しそうな位ムラム…「黙れ変態。その続き、一言でも発したらテメェのナニ、切り刻むぞ」 地を這う低い声が流暢に卑猥な単語をペラペラと語る声を遮断した。臨也は不満げに一旦口を噤むが、蛇の様な狡猾な赤い瞳はまだ語り足らないとジットリと見詰めてくる。 「………、……で、何か用ですか?」 渋々、本当に渋々だが、その物憂気な瞳を向けられ続けても鬱陶しいので一応用件を聞く。勿論出来る限り抑揚を付けず棒読みで。 「うんうん、良くぞ聞いてくれました!」 キラキラと瞳を輝かせて、軽やかにステップターンを踏む折原ウザヤ…じゃなかった折原臨也。嗚呼…やっぱり聞くんじゃなかった。数秒前の自分を恨むよ。 「俺は人を愛してる。だから当然キミの事も愛してる」 「貴方が人Loveなら私は喜んで犬畜生以下に成り下がりますけど」 「あははは、ヤダなぁ話しはちゃんと最後まで聞こうよ。俺は確かに全人類を愛してるけど、大好きなのはキミだけだよ?」 「………」 「そんな目で見ないでよ。侑子は特別だって言ってるの。そんな事も分からない位頭悪いの?」 「間違ってもアンタにだけは『頭悪いの?』とか言われたくない。そもそも特別って何?誰もんなモンにしてくれだなんて頼んでねェよ」 神様なんて信じてないけど神様、殺せだなんて物騒な事は言いません。だからせめてお願いだからこの変態を私の目の前から取り除いて下さい。全力で。 「アハ、本当にキミは面白いね。それでこそ俺の恋人だ」 「…、はぁ…何かもう突っ込んだり訂正したりするのも面倒なんだけど」 「俺としては今すぐにでも侑子の中に突っ込みたい位だけどね」 「死ね」 間髪入れず、寧ろ被せる勢いで"し"と"ね"と言う二音を発する。 疲れた。いや憑かれてる、か…… 我ながら上手いことを言ったと心の中で自画自賛。 「取り敢えず、侑子と出逢って三ヶ月。記念のキスをしよう!」 「………は?」 恋愛不適合者 言い終わるか終わらないかの所で、気付けば眉目秀麗な顔が目の前に。長くはない、寧ろ瞬間に近いキス。それでも臨也はスルリと舌を口内に差し込み私の唇をペロリと舐めとってから唇を離した。 器用な男だ。素直にそう思った。 (まぁキス位じゃ騒ぎゃしないけど) 「臨也って本当にウザいよね」 爽やかな笑顔が晴天の池袋の下、輝いた。 (愛とか好きとか良く分からない……) (特にコイツだけは、) ---------- 2010,05,28 |