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ご馳走さま。頂きます



飯の食い方を見ろ。
祖父から良く言われた言葉だ。
クチャクチャと音を発てるのは論外。食べ散らかすのも駄目。出来ればながら食べも舐め箸、迷い箸も三角食べが出来ないのも頂けない。


「どうした」


そんな事を考えていたら、どうやらじっと食事風景を凝視していたらしい。いつの間にか食事を終えた四木さんが、怪訝そうな顔で覗き込む。


「え、あー……四木さんって本当に綺麗に食べるなぁって」
「それはどうも」
「う、ん?」
「それで」
「え、」


完食し終わった茶碗は炊きたての白米をよそう前と同じ様に、米粒一つ残さず本当に綺麗に食べていた。更に付け加えるのなら、秋刀魚の塩焼きも物の見事に骨だけを、それも秋刀魚の原形を留めたまま骨格標本よろしく身と皮と内臓を平らげていらっしゃる。ここまでされては秋刀魚も本望だろう。


「いえ、それで何だか祖父を思い出してしまって……あ、いや別に変な意味ではなくて…!」


祖父は良く言っていた。
食べ方を見ればその人の全てが分かる、と。


「私の祖父も、とても綺麗に食事をする人だったから」
「ほう」
「それで、結婚するなら絶対に米粒一つ残さず綺麗に食べる人にしろって良く言われました」


クスリ、と昔を懐かしむ様に笑う。私自身、食事作法については祖父から口を酸っぱくして言われ続けていた。そのお陰か、一応人並み以上には綺麗に食べる事は出来る様になったが、それでも最期まで祖父には敵わなかった。何事にも厳しくそれでいて優しく真っ直ぐだった祖父は私の憧れであり尊敬する人で、祖父の様な人と一緒になれたらなと心の隅でいつも思っていた。
いつの間にか流しに片付けられた食器の代わりに熱い緑茶が二つテーブルの上で湯気を上げる。


「成る程、な。それで俺はキミのお祖父様のお眼鏡には適いそうかね」
「えっ、えーと……」


突然の言葉に思考が追い付かない。オロオロと視線を彷徨わせた挙げ句、結局四木さんの目に絡め取られるのだった。


「つ、つまり、どう言うことでしょうか?」
「つまり、俺はキミの結婚相手として相応しいかどうか、だ」
「し、四木さ、ん――?」


それでも尚、オロオロとドギマギしていると呆れたとでも言う溜め息を吐かれた。


「あんまり鈍いと飯だけじゃなく、お前の事も食っちまうぞ」
「あ、ちょ、四木さ―――」


最後の音はテーブル越しに奪われたキスに飲み込まれた。



ご馳走さま。頂きます



酸欠になる間際にようやく唇を離してくれた四木さんは、そっと耳元で囁いた。


「残さず綺麗に食べてやるから安心しろ」


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2011,03,26