いつもの様に長谷川のくだらない授業を抜け出し屋上へ向かう。どうせこんな真っ昼間からサボる輩なんぞいないだろうし、更にわざわざ屋上に来る奴なんて限られているだから今日もそのつもりでモヤモヤとした気分を晴らす為に屋上に上がったのだ。 ―――キィ…ガタン 壊れた鍵の扉を少し乱暴に蹴って開ける。途端、目に飛び込んで来たのは真っさらな青空……ではなく、黒い髪をたなびかせ短めのスカートで仁王立ちに近い格好で立つ女の後ろ姿だった。 (チッ…誰だこんなところに) 眉間にシワを寄せ、取り出しかけた煙草を戻す。そして「オイ」と語気を強めに声を掛けようとした、その時だった。 地面ごと震える重低音。力強い四弦奏。その細い指からは想像がつかない様な荒々しい演奏は今まで聴いてきたどんなロックバンドとも違う。 目茶苦茶だ。 (目茶苦茶だけど、すげェ…) 掻き鳴らされた地を這うベース音と、厚く立ち込めた雲すら突き抜けてしまいそうな清んだ綺麗な声。高過ぎず低過ぎず、アルトともソプラノとも言い切れぬ歌声はその無茶苦茶なベースと重なり合い、不思議なハルモニーを演出した。鳥肌が立つ、とはこの事だろう。 「なんてヤローだ……」 詰まらない授業とくだらない教師の雑談でモヤモヤとしていた気分が知らぬ間にすっ飛んでいた。そして気が付いたら駆け寄り、腕を掴んでいた。想像以上に細い腕は、それでもやはりしっかりと筋肉がついていた。 「―――えっ…?」 突風少女 それがアイツとの出会い。 いきなり目の前に現れた破天荒な演奏と歌を奏でる女。目も耳も、心さえ奪われた。ただ一つ、予想外だったのは、その性格も破天荒で無茶苦茶だったって事だ。 「ちょっと!いきなり何すんの、よッ!」 出会った直後に回し蹴りをしてくるなんて誰が予測出来るだろう。危うくクリティカルヒットしそうだった蹴りを持ち前の運動神経で回避する。 「あ、っぶね…!てめぇ、いきなり何しやがる!」 「それはこっちの台詞だッ!!」 キャンキャン言い争った挙げ句、気付いたら殴り合っていた。初対面でしかも女と殴り合いの喧嘩をするなんざ、後にも先にもコイツだけだろう。 (おま、どうしたんだよそのケガ) (るせェ銀時、ちょっと天使に殴られただけだ) (はァ?) (アッハッハ晋助、おんしついに頭沸いたがか?) (っ黙れ毛玉!!) ---------- 2010,04,10 |