路地裏から、男とも女ともつかない喘ぎ声が聞こえてきた。 真っ昼間から何処のどいつが盛っているのか。 取り敢えず声のする方へ足を運んでみる。 「、ヒッ…!!………あぁ、ぁッ……」 何とも情けない声が木霊する。 仔猫はゴロリと力無く転がる欲に溺れた肉塊の髪を掴み、グイと顔を覗き込む。 「たっく、勝手にイってんじゃねぇよッ……て、あー?逝っちまったか…?」 ピクリとも反応を示さなくなった肉塊。 (あーだりぃ) 頭をガシガシと掻きむしり、仔猫は吐き捨てる様に呟く。 そして、全身、汗と唾液と体液で濡れた目の前の裸体を詰まらなさそうな目で見下ろす。 情欲に溺れ愛欲にたぶらかされ挙げ句駆け落ちして今はただの肉の塊。 くだらな過ぎて欠伸も出やしない。 感情の全く篭らない無機質な視線でそんな事を考えながら、近付いてくる気配を背後に感じていた。 「昼間っからお盛んなヤツはぁ、何処のどいつだぁ〜?ってあぁ!?女!?」 このご時世、娼館にいる娼婦を買える奴等は極僅か。 普通は、傷モノや大年増になって娼館で働けなくなった女や男同士、最悪病持ちで欲を満たしているのが現状だった。 だからってきり男同士ヤリ合ってるものだと思っていたので目の前の光景に唖然とした。 グンジの前には若干服が乱れ、所々白濁した液体が付着したままの仔猫が一匹。 仔猫の前には二つの肉塊。 一つは首と脚を、綺麗に胴体から切り離された屍体。 もう一つは左腕はあらぬ方向へ曲がり、首筋から腹にかけてパックリと真っ赤な肉を曝け出した、多分今し方まで喘いでいたであろう、屍体。 一方は見た目にも屈強な男で、もう一方は生前は中々の上玉だったであろう遊女。大方、駆け落ちでもしようとした所を、遊廓付き自警団に追い詰められ殺されたのだろう。 (しかしまさか、この女が殺ったのか…?) そんな事を頭の中で考えていると、猫が冷ややかで狂気染みた目をゆっくりと向ける。 ゾクリと背中が粟立つのを感じた。 ドクリドクリと心臓の音がやけに煩い。 身体地面に縫い留められたかのようにピクリとも動かず、ただ仔猫を見詰めるしか出来なかった。 すると仔猫はゆるゆると地面に放り出されていた自らの身長と同じ位の日本刀を拾い上げた。 「ッ!?」 瞬間、瞳の奥に虚ろな狂気は消えギンッとした鋭い眼差しへと変わり、猫はグンジに向かって突っ込む。 そしてグンジの目の前で刀を地に突き立て軸にし、地面を脚で蹴り、綺麗な弧を描いて猫は空を飛んだ。 全てが一瞬の内の出来事で、グンジはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。 「猫って空飛ぶんだっけ…?」 犬と猫 しなやかに舞う体はまるで猫の様で。 軽やかに着地する脚は一拍置いて再び地面を蹴った。 それが野良犬と野良猫の出会い。 ---------- 2008,06,13 2010,04,02 加筆修正 一応、溺れる金魚〜の過去的な何か |