物欲、愛欲、情欲、肉欲 欲、欲、欲、欲…… 悪魔は欲に忠実だ。 常に自らの欲望を満す為だけに行動する。 特に喜悦の悪魔は質が悪い。 「そう言えば今日はバレンタインだよねぇ。で、仔猫ちゃんは僕に何をくれるんだい?」 貰う事が当然だと言わんばかりに喜悦の悪魔―フラウド―は言った。 「なんでそう、貰う事が前提なのよ」 呆れた、とげんなり顔で告げるがヤツはニコニコと笑顔を崩さない。 「あれ、何もくれないのかい?」 「じゃあ逆に聞くけど何か欲しいものでもあるの?」 「んー…あるよ」 意外にもあっさりと『ある』と伝えられ辟易する。 そんなセラに構うことなく、フラウドはゆっくりとセラの頬を撫でる。 その行為に戸惑っているとゆっくりと白く細い指が左目まで這い上り、クスリと笑ったかと思えばいきなりグリッと二本の指が眼球と眼窩の隙間に埋め込まれた。 「ッ…!!??」 突如として左目に走る痛みに顔を歪ませる。 痛すぎて声も出ない。 しかしそれでも二本の指はそのまま奥へ奥へと押し進んでゆく。 「…ヒ…ッ…い゛ぁ゙ぁ…!」 悲鳴とも言えぬ呻き声。 顔から手を引き剥がそうとするが、細い腕には全く力が入っていない。 そんなセラの行動を嬉しそうに見詰めながら更に眼窩の奥へ指を進める。 グリグリ、プシュ…ゴボッ、…… 「う゛…や、め…ッ…ハッァ…!!!」 ドクドクととめどなく頬を伝い、首筋を通り鎖骨の窪みに血液が溜まってゆく。 酷い痛みのせいでどんどん息は上がる。 上下する喉にフラウドは真っ赤な舌を這わせじゅるりと流れ落ちる血を飲む。 そして第一、第二関節を曲げ眼球の裏側を掬う。 「ぎゃッ、ッ……ク、…ぁ」 ブシュッ――グチャリ なんとも卑猥な音をさせフラウドは眼球を抉り出した。 フラウドはニコリと満足そうに笑うと赤く濡れた手でそっと空洞となった左の眼瞼を、愛おしそうに撫でる。 閉じられた瞼からは未だドクドクと生暖かい赤黒い液体が流れ出る。 「……か…は、…」 口端からは咽下しきれなかった唾液がだらし無く零れた。 「セラ」 ニヤニヤと笑いながらセラの手をそっと掴み、赤で彩られた眼球をそっと掌に乗せた。 「ッ、とに…有り得、ない……!」 未だ治まらない痛みに顔を歪ませながら、セラはワナワナと怒りに身を震わせる。 しかしフラウドはそんな事はお構い無しと、指先を舐め手首を舐め、頬から唇に舌を這わせセラを味わう。 「ちょっと、フラウド!」 堪らず声を荒げる。 まだ生暖かくヌルリとした左目がセラの手からフラウドの掌へと再び移動した。 「なんだい?」 「なんだい?じゃないわよっ!いきなり何するのよ!!」 大声を上げたせいでズキリと左目に激痛が走り、ウッ、と苦悶の表情を浮かべる。 「何って、キミが何が欲しいのか尋ねてきたから」 ちゅるりと目玉を舐める。 「目が欲しい、と」 無駄に良い顔でさらりと言ってのける。 「〜ッ!!ふ ざ け る な !」 「ふざけてなんかいないさ。ボクはいつだって本当の事しか言わないよ」 ね?と爽やかな笑み。 パチンと指を鳴らせばもう左目の痛みは無くなっていた。 血は流れたままだが、どうせ止血しないのはアイツの趣味。 「それに、こんなボクを好きになったのはキミでしょ?」 「自惚れんな」 悪態を吐きそっぽを向く。それでもフラウドは楽しげに目玉を転がし、よしよしと髪を混ぜる。 「………バカ…」 俯きながらボソリ。 「セラ、」 優しくそっと、毒の無い甘さ。 君の躯の一部を僕の躯の一部と同化させる。 いや、支配するんだ。 誰にも消せない、けれど誰もが気付く支配の証。 「死ね」 「あはは、酷いなァその言われよう」 喰べてしまいたいくらい愛おしく、殺してしまいたいくらい可愛らしい。 でも喰べてしまえなくて、殺してしまえなくて。 挙げ句、傷付ける事さえ躊躇ってしまう。 でもそれが何とも不思議で心地良い。 そんな感覚に捕われながら、隻眼の瞳で睨みつけてくる雌猫を『瞶る』 すっぽりとセラを両の腕に捕らえ、そしてそっと耳元で甘く囁く。 「 次ハ 何ヲ クレルンダ、イ ? 」 禍々しくほくそ笑んだ。 笑った顔が好き 苦痛に歪む顔よりも満たされる。 なんてボクらしくもない。 (テメェにやるもんなんか何もねェよ!) (つれないなァ) (黙れ、莫迦) (――――愛してる) ---------- 2008,02,14 2010,04,05 加筆修正 |