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溺れる金魚と嗤う雲



大量の血臭につられ、路地裏に来てみれば、案の定、そこには血の海が広がっていた。


「あーあったく、まァーた派手に殺ったなァ?」


間延びした独特な口調でグンジはパシャリと血溜りを踏む。

めんどくせぇ。
大体ここまでやるか、普通?

ゴロゴロとイグラ参加者が3、4人転がっている周りを良く見れば、ほとんど人の原形をとどめていない死体もあるではないか。


「くっそッ!だりぃな…」


どうしてこう、一人の時に限って厄介なゴミに遭遇するのだろう。
そのまま無視して立ち去ってしまいたいが、そうもいかない。
どんな状態であろうと、死体を回収するのも処刑人の仕事。
仕方無しに肉塊と化した男共に近付くと

――――カランッ

と金属がコンクリートに叩き付けられる音がした。


「んー?」


どうせ壁に立て掛けてあった廃材か何かが倒れたのだろうと思いつつ、音のした方へ視線を向けた。
微かに死体以外の気配がある。

死に損ないか、違反者か………ッ女…!?

血と欲に飢えた奴等が集まるトシマに女が居るなんてあり得ない。
攫われて来たか、もしくは売買目的で連れて来られたが売られる前に逃げて来たか。
しかしどちらにしろこの惨状の中生きて居るはずが無い。

降り頻る雨の中目を凝らせば、少女の服、腕、髪、頬は真っ赤だった。
勿論、全て返り血だ。
ゾクリと背筋が慄え立つのを感じ、本能が血を求める。


「あーらら、仔猫ちゃんはァおいたしちゃったのかなァー?」


警戒しつつもゆっくりと少女に近付いて行く。


「――――ッ」

「あぁ?」


激しい雨音で少女が発した言葉が聞き取れない。


「―――ン―?」


グンジは立ち止まり目を細める。


「――ッ――グ、ンジ…?」


その響きを、声を、言葉を聞いた瞬間、周りの音が消え、頭の中が真っ白になっていき、

まさか…忘れるはずも無い…

目の前の赤が彩りを帯びてゆく。

忘れる訳が無い。


「あ、………」


口から出た声は掠れ、立ち尽くしていた足は水を弾き駆け出していた。

――アイツは……アイツは…

少女は顔を上げると、にっこりと笑う。


「グンジ、来ちゃった」


アレはオレと同じ狂気をもつ女。

気が付けば腕の中には仔猫がいた。
血と雨でぐっしょり濡れた体は生暖かく、首筋に顔をうずめれば、確かに生の匂いを感じる。


「セラ…」

「クス、相変わらず甘えたなんだから」

「ウルセェ」


子供みたいにすり寄ってくるグンジの髪をゆっくりと梳きながらあやしてやると、グンジはゴロゴロと喉を鳴らしながら首筋に舌を這わせる。

本当、どっちが仔猫だか…

少しザラッとした舌先で繰り返し傷痕を撫ぜられ、ブルッと震える。


「ッ………」


それは一生消える事の無い、大きくて深くて生々しい傷痕。
あの日グンジがアタシに付けた傷痕(首輪)

再び首筋に震えを感じると、今度はチリリと痛みが追ってきた。


「ネコの血は甘いなァ」

グンジの歯で噛み千切られた首からは、サラサラと綺麗なルビー色をした血が滴る。


「探すの大変だったんだからね?」

「はぁ?何言ってんの、お前。
猫はきそーほんのーとか言うやつがあるんだろ?」


あぁ昔から何も変わってない。
子供がそのまま大きくなったような無邪気な笑みで、少し乱暴に大きな手でクシャリと頭を撫でられる。
ただそれだけなのに愛しくて、可愛らしくて、どうしようも無い程求めてしまう自分は、相当末期だと思う。

欲と本能と狂気だけがアタシを生かし突き動かす理由。
だけどココに来た理由はそのどれでも無い。
ただ一つ言い切れる事があるとすれば、アノ時も今もそしてこれから先もアタシが一番に求めるのはグンジだけだって事。



溺れる金魚と嗤う雲



(歪みきった愛慾は貴方との絆)


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2008,06,12
2010,03,24