「飽きもせずわっちの所によく来なんしなぁ」 受け入れてくれる?受け入れて貰ってるの間違いでしょうに。 「いいだろ別に。こっちが金払ってんだ、何も文句はねェはずだ」 甚だ可笑な事を言う。女郎なんぞに身を落とした阿婆擦れが、などとほざく輩はわっちがその口全て縫い付けてくれよう。 「して、今夜は何用で?わっちに抱かれる気にでもなったかえ?」 「はは、ふざけんな。だぁれがテメェなんぞに抱かれてたまるか」 身体を売ったとて何も変わりゃしないさ。心を明け渡したとてなんになる。 「酷い事を言いなんし」 「本当の事だろうが」 金を払い女郎を抱く。寝物語りを囁き遊女を口説く。そんなのは莫迦な男のとんだ勘違い。 「ふふふ、いつまで持つやら楽しみじゃ」 金を貰って男を抱く。夢物語りを囁き客を誑かす。 「ほざけ」 男が抱きにきたんじゃありんせん。わっちが抱いてやってりんす。あれよあれよと落ちてゆく男の様は、あな可笑や。 「アンタみたいな男は何人も見てきたえ」 琴鶴屋の花魁はあな恐ろしや。 「結局最後にはわっちに抱かれた奴もいたし、抱かれずに去って行った奴もいたさねぇ」 惚れた男は数知れず。破滅なんぞはまだ良い方。貢がされ狂わされた挙げ句、死ぬにも死ねず廃人さ。 「だから俺も大して珍しい客じゃないと」 琴鶴屋の花魁には気を付けな。 「頭の回転の良い男は嫌いじゃないよ」 アイツは人を喰い殺す魔物さ。 「それすらも分かって通う男。そんな輩は莫迦な餌」 ホレたハレたは御法度とは良く言ったもの。だから喰い殺してあげりんす。二度と惚れぬ様。二度と惚れられぬ様。 「こりゃまた手厳しいこった。俺もいつかは喰い殺されちまうってか」 不敵な笑みを浮かべあどけない仕草で絡めとる。手練手管なんて可愛らしいもんじゃぁない。 「骨の髄まで、ね」 抱かれたら最期、甘酸っぱい快楽と引き換えに魂諸共地獄逝き。 「嘘か真か、そんなものはわっちの言葉にはありんせん」 琴鶴屋の人喰い太夫とはわっちのことでありんす。 「あるのは地獄のみ」 「違いねぇ」 どうじゃ、おんしも抱かれてみるかえ? 紅差す目尻に金、百両 (どうやら俺もとっくに地獄に居る様だ) ---------- 2009,09,28 |