「毎度々々ご苦労なこと」 そう言えば「アァ?」と睨まれる。全く本当律義な人だこと。 「そろそろ抱いてみるかえ?」 茶化したつもりはないけれど、真面目なアンタは目付きの悪い顔を更に悪くして見下ろされた。 「抱く?そりゃ抱かれろの間違いだろ」 「ふふふ、主様になら抱かれてやっても良いさね」 「ハッ、んな手練手管は他の客に使うんだな」 「つれんお人」 いつもそう。絶対に抱く気は無いのに毎月必ず同じ日、同じ時刻にやってくる。これでも一応、アタシの事が心配なんだろう。 「大体テメェを抱くなんざァ、テメェでテメェを抱いてるようなもんだろ。胸糞悪ィ」 苦虫を噛み潰した様な顔でそんな事を言われれば、煽りたくなるのが人の性。 否、そんなのはアタシだけ、か。 「したらば自慰と思えば良いではないか」 「つくづく性悪な女だな」 喉の奥でクツクツと笑いながら言えば、呆れた顔でそう言い返されてしまった。 「ふふ、だって主様の実妹でありんすから」 獣に落ちたと言いんしても実の妹は抱けんとな。あな可笑や。所詮そんなものか。 「テメェと同じ場所に落ちる訳があるめェ」 おや、読心術か?それは少々頂けない。 「顔に出てんだよ」 ガツンと容赦無く頭を殴られる。こんな馬鹿みたいにくだらないやりとりが楽しくてたまらない。これが幸せと言うのだろうか。これを幸せと呼ぶのだろうか。否、他人から見ればそんなもの幸せと呼ぶには程遠く、むしろ不幸の域に入るだろう。それでもアタシは幸せなんだ。 落ちた先は違えど伴に寄り添える温かさ。それがアタシたち兄妹なのだから。 寄り添いて伴に咲くは金盞花 (暗い悲しみを背負って散る二輪の花弁) ---------- 2009,09,26 |