目の前が真っ赤だった。焼ける様に熱いのは身体では無く、心。 なんで。 なんで先生が…こん、な…ことに…… 膝を付き、燃え盛る炎を前に師の名を叫ぶ。叫んで叫んで、叫んで憎み、そして呪った。 また俺から奪うのか。 また俺を棄てるのか。 また俺は……独りになるの、か… 刀を握り締めた拳が涙で濡れる。 「―――銀時、無事かッ…!?」 燃え上がる炎を見た桂と高杉が駆け戻って来た。 「クッソ…何でこんな事に!!」 わなわなと変色する程手を握り締め、吐き捨てる様に高杉は唸る。いつも冷静な桂でさえ取り乱し、思いっ切り地面を殴り付けた。 「せんせ、い…、松陽、先生……どうしてだよ。何で、だ、よ…!!」 分からない。 何故、先生は帰って来ないのだ。 何故、寺子屋が燃えているのだ。 何故…何故、な…ぜ…… 「あ、ああぁぁぁあぁぁッッッ!!!!!」 悲痛な叫びが木霊する。 それから数時間後、途中から降り出した雨のせいもあり、あれ程の炎は嘘の様に鎮火し後には黒く炭化した残骸のみが残った。 「落ち着いたか、銀時」 「落ち着いたか、だ…?馬鹿言ってんじゃねェぞ、ヅラ」 まだ少し幼さを残す顔は、いつの間にか鋭い獣の様な目をしていた。 「俺は赦さねェ…俺達から先生を奪ったこの世界を、絶対ェに赦さねェ!」 「嗚呼、そうだな。俺もそれに賛成だ」 銀時同様、高杉も己の刀を手に取り天を睨む。 「俺とてこの様な腐った世界、壊してくれよう」 三本の刀の刃先が触れ合う。天を穿つ様に掲げられたそれらは、獣の牙。キンッと同時に納められた刀を腰に差し直し、地平線の彼方を見据え睨む。 「売られた喧嘩は買ってやる」 「ハッ、違ェねェ」 「勿論倍値で、だろう?」 憎しみに生きる 生きる術。生きる意味。 生きる力を教え、死んでいた俺を生かしてくれたあの人を。誰よりも世を憂い、国を愛したあの人を。この国は、この世界は、奪った…… それなのに、どうして俺達は愛せよう?赦せよう? 嗚呼先生、剣を取り貴方を奪った世を憎み、恨む事しか出来ない俺達を許して下さい。 こうする事でしか、壊れかけた"心"を生き繋ぐ術を知らないのです。 (血に塗れた鬼と成れ) ---------- 2010,05,01 |