おなじ星を見あげる



へんなヤツが来たと思った。白いふわふわの髪で、こどものくせに刀を持ってて授業中はいっつも一番後ろでよだれをたらして寝てる。

(なんなんだよコイツ…)

それでも松陽先生が連れて来た子で、だからか余計に面白くない。だから事あるごとにじいっと睨みつけてはみるが、アイツは興味なさげにぼーっと空を見ているだけだった。





その夏、寺子屋で林間合宿と言う名のお泊り会があった夜、ふと高杉は夜中に目を覚ました。むくりと布団から起き上がり、ヅラや他のこどもたちに気付かれぬようそっと部屋を抜け出す。そしてそのまま廊下を歩いてゆき、縁側に出る。辺りはまだまだ暗かったが、空いっぱいに広がりきらめく星たちで、思ったより外は明るかった。

ヒュン、ブンッヒュンっ―――

ふと中庭の方から空を切る音が聞こえてくる。そのまま高杉は音のする方へと歩いて行き、そこで見た――――いつも寝るときすらその傍らに大切そうに持っている刀で、一心不乱に素振りをしている銀時の姿を……

ブンッ、ブンッ…ヒュン―――

たいてい、まぬけ面で寝ているかぼーっと死んだ魚のような目で空を眺めているかのどちらかで、そのどちらもやる気なさげな雰囲気だったので一瞬、アイツだとは思えなかった。


「おい…!」


声を掛けて良いものか迷ったが、なぜ自分がコイツに気を遣わなければいけないのだと思いなおし大きな声で呼び掛けた。


「ん…?」


銀時は振るっていた腕を止め、声のした方へと視線をむける。そしてすこし考えるそぶりをみせてからおもむろに口を開く。


「えー……っと…あぁ、チビすけ」
「チビじゃねェ!!たかすぎだ、"たか"すぎ!」
「そうだたかすぎだ、たかすぎ」


本気で間違えていたかのように、おぉと手を打ちヘラっと笑い納得する銀時にやっぱりコイツは気にくわねェと高杉は思った。


「おまえ、こんな夜中になにしてんだよ」
「何って素振り?」


真顔で答える銀時に「そりゃ見れば分かるだろ!」とイラつく。が、次いで開いた口から出たのは真剣なものだった。


「強くなるんだ。おれは自分のたましいを守れるくらい、強くなるんだ」
「なんだそれ…」
「せんせいが言ってたんだ。『敵をきるためではない、弱きおのれを斬るために。おのれを守るのではない、おのれの魂を守るるために』って」

「だからおれは強くなる」
「ふーん……じゃあおれもだ。おれもしょうようせんせーが言ったように強くなる!」
「チビなのに?」
「チビじゃねぇっつてんだろ!!つーかたいして身長かわんねぇし!毎朝牛乳飲んでるし!」
「あはは、じゃあ勝負な」
「おう、望むところだ」


イヒヒと笑い合い互いの拳と拳をコツンとぶつけ合う。


"約束だ、一緒に強くなろうぜ"



おなじ星を見あげる



相変わらずへんなヤツだし所々気にくわないけど、嫌いじゃァない。そう高杉は思った。


(こんどいつもお前といる髪の長い女の子、しょうかいしろよ)
(髪の長いって…は?アイツ男だぞ?)
(マジでかぁぁッ!)


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2010,07,07