赤い赤い大きな月が夜の半分を占める。妖艶な笑みを口端に刻み、紫煙を吹かすこの男は、うんざりするほど絵になる。 「どうしたァ?溜め息なんて吐いてよォ」 チラリと流し目を向け、カツンと欄干に雁首を打ち付ける。その飄々とした態度に再度溜め息を吐く。 「、どっかの誰かさんが部下の躾をちゃんとしないから困ってるの」 「岡田、似蔵の事、か…」 「ただでさえ機嫌が良くないって言うのに…」 敢えて誰が、とは言わない。彼らが犬猿の中だと言う事は周知の事実。更にその原因の根本を作った人物が問うなど野暮も良いところだ。 「んなァ事ァ気にする必要あるめェ。直に静かになるってェもんだ」 川流の如く紡がれる言葉はそれだけで女を落とし、人を喰らう。質が悪いったらありゃしない。三度溜め息を吐き、高杉のすぐ横で手摺りに背中を預け満月を見上げる。 「捨て駒、ってこと…」 「ククッ、なんだァ同情かァ?」 感傷や同情、道徳心なんてものでそう呟いた訳ではない。それを分かった上でのこの問い掛け。人を挑発するのが本当に上手いこと、。生憎私はこんな事位じゃァ一々気にも止めないが。 「…いやそうじゃなくて、…ハァ、もうどうでも良いや」 「フッ、なんだァ…?今日はやけに素直じゃねェか」 深緑の隻眼を細め、クツクツと咽を揺らしたかと思えば目の前に端正な顔。煙草の独特の苦味と高杉自身の甘さがジットリと口内に広がる。 (あぁ…紫檀の髪が月明かりに良く映える) 「オイオイ、考え事たァ余裕じゃねぇか」 チュッとリップ音を立て唇が離される。満足げにニヤリと笑うアイツに、怒る気すら無くす。 「結局コレでごまかすんでしょ」 本日何度目か分からぬ溜め息を吐き、呆れたと眉を潜める。 「…、岡田似蔵…彼は些か純粋過ぎた」 高杉から奪い取った煙管を銜え、紫煙を吹く。 「伝説になりたい、剣になりたい。そんな可愛いげのある純粋な思いじゃ駄目なんだよ…」 いつの間にか派手な羽織りが肩に掛けられ、夜風に遊ぶ髪を優しく撫でられていた。 「獣にそんな思想は要らない。必要無い」 「あァ…」 「本当にただ、私達は壊すだけ……ま、銀時やヅラは怒るだろうけどね」 「ククッ違ェねェ」 再び軽く唇を啄まれてから煙管を返しそのまま船首を後にし自室へと戻る。 「こんな大きな満月の日は、かぐや姫でも降りて来るんじゃない…?」 クスリと笑いそう言い残していったアイツに、自然と己も笑みが零れる。 銀沙灘に紅月 「かぐや姫、ねェ……」 少しずつ緩やかな空気が澄んで張り詰めた空気に変わってゆくのを肌で感じながら、高杉は月を見遣る。 「全く…勘の良い奴だよお前ェさんは、」 (掬うまでもない大きな満月は) (お転婆な少女を一人、私達の元へ送る) ---------- 2010,07,06 M子氏がイラスト描いてくれましたァァ!!! わーパチパチ^^^^ 素敵イラストはこちらから |