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曖昧に点呼



叫び声、が聴こえない。
ここは戦場で、何千、何万の人と天人が殺気立ち刃を交える喧騒の中心。なのに、何も…何も聴こえない。噴き上がる血飛沫も振り下ろされる刀も、全てがスローモーション。遅い。斬って下さいと言っている様なものではないか。緩慢な動作。嗚呼、隙だらけで欠伸が出る。一思いに振り切れば、上肢と下肢が離別。此処は、本当に戦場なのだろうか…?
悲鳴も怒号も金属音すら響かない静寂の場に、こんな糞の役にも立たない鈍間を駆り出し、ふざけているとしか思えない。向かって来る遅緩な槍を左手で握り潰し喉元を貫く。
何も、聴こえないんだ……
あの人を奪われ、一つの世界が壊されたあの日から私の耳には何も届かない。非現実的な現実の中、嗤ってしまう程遅く間抜けな天人共を斬り殺す。それでも聴こえない。悲鳴も断末魔も命乞いも、私の耳には届かない。
あの日から何も……



「――ッ、オイ!ボーッと突っ立ってんじゃねェぞ!!」


はたと誰かが私の名を呼ぶ。
その声は鮮明に私の鼓膜を刺激した。


「死にてェのか馬鹿!」
「アハハ、おんしは余裕じゃのぉ」


一瞬にして世界はスピードを増し、無音から嗷騒へ。


「オイオイ、銀さん怪我したお前の事担いで帰る元気無いよ?」
「全く、戦場の真っ只中だと言うのに、どうしてこう貴様らには緊張感と言うものが無いんだ」


靡く黒髪と光る銀髪。耳に飛び込んできた乱暴な呼び声と豪快な笑い声。それらは酷く戦場に不釣り合いで、ただ、無音で遅滞した世界を切り裂くには充分だった。


「煩いなぁ、ちゃんと斬ってるでしょ」
「お前は危なっかしいんだよ」


減らず口を叩き合い、背中を預ける。繹騒する戦場の怒声や鳴号は矢張り聴こえないが、なぜか間の抜けた、そして決して大きくは無いこの声だけは、何処に居ても聴こえてくるのだ。


「死ぬんじゃねぇぞ…!」


誰とも無くそう叫んで、私達はまた四散しそれぞれの戦地へ向かう。



曖昧に点呼



名を覚える間もなく次々と死んで逝く志士達の中、私達五人だけが互いに名を呼び合い、自分は生きているのだと認識する。
それが、酷く幸せに感じた。


(高杉!)
(アァ…?)
(辰馬!)
(何じゃー?)
(ヅラ!)
(ヅラじゃない桂だ…!)
(銀時!)
(おー)


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企画:JOYFES
2010,05,17 濁点