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酒に恋う



陣を張った古屋の庭には桜が一本、咲いていた。こちとら攘夷戦争真っ只中だって言うのに呑気なものだ。そう一人ごちつつも、自らも呑気に月見酒だと言い縁側に高杉を引っ張り出す。
辰馬は先の宴会でベロンベロンに酔い潰れ、ヅラは見張りがあると断られ、銀時は他の仲間とまだ呑んでいた。


「俺はアイツらの代わりかよ」


渋々盃に酒を注ぐ高杉は呆れた様に溜め息を吐く。


「いやいやそんな事は無いよ、晋助くん。五人で呑もうと思ったらたまたま君しか空いてなかっただけだよ」


寂しい奴だね、と余計な一言を残した女の頭を叩く。


「オメェが強引に誘うからわざわざ付き合ってやってるんだろうが」


酒で火照った体を程よく冷ます夜風。舞い上がった桜の花弁が、月の映り込んだ盃浮かぶ。クイっと飲み干せば、トクトクと酒が注がれる。


「贅沢、だねぇ……」
「確かに、な」


明日の朝になれば再び血と泥に塗れ、もしかしたら二度と立ち上がる事が無いかもしれない。そんな私達が置かれている現状を忘れさせる程、月明かりに照らされ淡く発光する桜は綺麗で浮世離れしていた。


「ま、それだけじゃないんだけどね」


意味不明な事を言い、フフッと楽しげに笑う。
調子の狂う奴だ。
高杉は月を見上げる横顔をじっと見詰める。
意思の強い瞳。減らず口を叩く淡い唇。夜を纏う黒髪。その一つ一つが無性に愛おしくて堪らない。
カツンと置かれた盃に、再び酒を満たす。


「……なァ」
「んー?」
「、いやなんでもねェ…」


間延びしたやる気の無い返事に脱力する。

(何でコイツなんだか…)

こんなガサツで阿呆みたいな女に惚れた自分が未だに謎だ。クシャクシャと襟足を掻き上げ、自嘲気味に酒を煽る。


「高杉ー」
「んだよ」
「はい、これ」


手渡されたのは一見すると花びらが枯れ落ちた様な小さな紅い花。しかし重要なのは見た目では無い。
花の名は、

ワレモコウ



ほらやっぱり阿呆な女だ。
なんて事の無いようにヘラヘラと笑い酒を飲む姿は、矢張り癪に障る。グィっと引き寄せガツンと頭突きを喰らわせてやる。


「〜ッたァ!!いきなり何すんのよバカ杉!」
「ウッセ、阿呆の癖してこんな真似しやがって」


残りの酒を一気に飲み干せば、目と目が重なり合う。


我も恋う



肩を引き寄せ髪を梳く。酒と桜の香が生暖かい夜風によって混ざり合い、良い具合に酔いが回る。そっと、淡く桜色に染まった頬に寄せた唇と、しっかりと抱きしめられた背中。



酒に恋う



(好きだよ、バーカ)
(んなこたァ知ってらァ、阿呆が)


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2010,05,01