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良く回る舌だと思った。
ペラペラと有る事無い事をさも誇らしげに喋る、口。雄弁、な訳ではなくむしろその逆。語れば語る程お里が知れると言う事を、この間抜けな男共は気付いていない。嗚呼、鬱陶しい。今すぐ斬り殺してやりたい。ギリッと刀を握る手に力を込める。殺しても良いだろうか。いや殺す。絶対に、殺す。雪乃は冷たく細められた目で、いつ斬り殺してやろうかと見定める。


「オイオイお前さん、何する気だ」


異様な雰囲気を発する隣りに座る雪乃に小声で尋ねる。


「何って…アイツらを殺そうかと」
「…ッ…お前さんまで団長みたいな事言わんでくれ」


ヒクリと左頬を引き攣らせ、阿伏兎はそっと刀を押さえ付ける。雪乃が交渉中、ずっと苛々していたのは雰囲気で分かった。だけど、こんな所で殺生沙汰にでもされたら今までの時間と労力がパァだ。それは非常に困る。ただでさえウチの団長がああなせいで上からは睨まれてるってェのに、この上同僚にまで問題を起こされたらたまったもんじゃない。ギラギラと今すぐにでも襲い掛からんばかりに目を光らせる雪乃を何とか落ち着かせ様とする。


「頼む、もう少しの辛抱だから」
「無理。斬る」
「ちょ、おま、お願いだから止めてくれ」


押さえ付けられた刀をそのままキンっと鞘から刀身だけを抜こうてする。それを慌てて手首を掴み止めるが、中々雪乃は諦めない。


「阿伏兎離してくれないかな?」
「ハハ…ご冗談を…」
「私はいつでも本気だよ…?」


にっこり笑う雪乃の目は、全くもって笑っていない。ヤバい。マジでこれはヤバい。もうこれは一刻も早く交渉を終わらせ、彼らに御退席願わねば。キリキリと胃が痛むのを感じながら阿伏兎は早く話を纏めろと部下に目配せをする。瞬時に状況を察知した真面目で優秀な部下達は、冷や汗をダラダラかきながらもテキパキと話を纏め、さっささっさと交渉相手を退室させた。


「ッ…ふぅ……」


部下達が交渉相手を送り届けに行くのを確認すると、やっと二人きりになった部屋で深く大きな溜め息を吐く。


「お前さん、オレを殺す気か?」


肝が冷えたなんて物ではない。団長と同じか、若しくはそれ以上に寿命が縮まる思いをした。


「殺すのは阿伏兎じゃなくて、アイツらの方よ」


しれっと言い切る雪乃は未だ不機嫌。


「なぁ雪乃、どうして今日はそんなに機嫌が悪いんだ?」


いつもならここまで機嫌が悪くなる事は無い。確かに余計な事をペラペラと喋ってはいたが、それはどの交渉相手も同じ様なもの。何処にそこまで機嫌を損ねる様な事があったのか分からない。


「…アイツら、馬鹿にしてた」
「……え?」
「団長の事も餓鬼だ何だって馬鹿にしてたし私の事も女だからって見下してた。けど…、」


眉を寄せ、少し頬を膨らませながら言われた次の言葉に目を見開かずにはいられなかった。


「何が赦せないって、阿伏兎の事を私の目の前で侮辱した事よ!!」


泣きそうな程悔しがる雪乃を見て、どうしてこれ以上責められよう。たまらず引き寄せギュッと抱きしめる。よしよしと背中をあやせば、もうそんな歳じゃないと言われた。


「オレァそんな事全然気にしてなかったんだがなァ…」
「……煩、い」
「クク、まぁでもありがとな」


チュっと額にキスを落とせば、もう機嫌は直ったらしく柔らかい笑みが零れた。



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(ネェ、いつまでそこでイチャついてるつもり?)
((あ…団長))
(……良い歳した大人にハモられても全然可愛くないから)


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2010,05,04