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総奪



日曜の昼下がり。やけに多い人を掻き分け歩き慣れた道を進む。
派手な着物に目深に被った笠。それに左脇に添えられる刀。通行人の目を引くには充分なその出で立ちは、とても追われる身とは思えない。


「よう…」


ガラリとおもむろに開けられた引き戸。


「またそんな派手な格好で」


そこには相も変わらず派手な着物に身を包んだ男が一人。


「そんなに真選組に捕まりたいんですか?」


コイツは馬鹿なのか、といつも思う。


「ハッ、アイツらなんかにゃ俺ァ捕まえられねぇよ」


小首を傾げてニヤリと笑う。
色気。
その言葉が良く似合う。どこからその自信はくるのか、一度で良いから頭の中を覗いてみたいものだ。


「で、何の用ですか」
「何か用がなきゃ来ちゃいけねェのか?」


ガタリと勝手にカウンター席に陣取る。


「そういう意味じゃないけど」


仕込み途中の鍋を見ながら人参を拍子切りにする。今夜のメニューは金平に風呂吹き大根だ。


「何か用事があるから来るんでしょう…?」


トントントンとリズム良くまな板が歌う。それに耳を傾けながら懐から煙管を取り出し優雅に吹かす。


「お前に会いに来た」


しれっとした顔で良くもまぁそんな臭い台詞が…人参を切る手を止め、溜め息を吐く。


「そういう台詞はそこらの綺麗なお姉さん方に言って下さい」


そう言って煙管箱をカウンターに置く。
ここは飲食店。しかも仕込み中。どうして煙草なんかを吹かせられる。

カツン―――
火種と灰を箱の中へ。
グッと身を乗り出し肩を掴む。


「なら…――」


何事かと振り向けば鼻と鼻が触れ合う寸前。引き寄せられ耳元に息がかかる。


「テメェを攫いに、来た―――」
「――――は…?」


気付いたら船内にいた。
気付いたら雲が目の前にあった。
気付いたら―――アイツが隣りで笑っていた。



総 奪



どうしていつもこうなるのだろ。全部、全部、あのニヒルな隻眼男に奪われる。瞳も唇も………心、も―――



(ちょっとお店、どうすんのよ…っ!)
(んなもん知るか)
(知るかって、…ッもう最低!!)
(あァ?その最低野郎に惚れたのはどこの誰だよ)
(ッ…さぁ…?誰かし、ら)


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2010,03,20