俺が底だと思っていた場所はどうやら底じゃ無いらしい。アイツはもっと深い闇の中にいる。俺はその内に黒い獣を飼っているが、アイツは、アイツ自身が黒い獣だ。 ずっと一緒にいて何故気付かなかった。 いや、違うか。 瞳を閉じて、気付かない振りをしていただけ… 同じ闇に居ると思いたかった。アイツが俺より深くドロドロとしたものを抱えている事実を認めたくなかっただけだ。くだらない意地と安心したいが為に…… だが、随分遅くなっちまったが今なら言える。お前は俺が、その深く冷たい底無しの闇から引き摺り上げてやるってなァ。 鋭い眼差しは嘗てのそれとは違っていた。冷たく射抜く様な瞳の中にも、微かに熱を孕んでいる。フツフツと炙る様な確かに熱い熱を。 「…雪乃、」 確認する様、名前を呟く。ギュッと拳を握り締める。 さぁ、終ェといこうじゃねェか! 派手な着物に同じく派手な羽織りを靡かせ右手に刀を取る。 勝っても負けても一世一代、最後の大戦。テメェの為に刀ァ、振るってやるよ。 そうニヤリと嗤う妖艶な笑みは、私の闇を一瞬照らした。光はもうすぐそこに有るのかもしれない。 戦場に白菊 (今もまだ、咲いている) ---------- 2009,08,15 |